研究課題/領域番号 |
16K00712
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池田 美奈子 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (00363391)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 伝統工芸技術の型 / 伝統工芸技術のアーカイブ / 現代生活デザイン |
研究実績の概要 |
国内の伝統工芸の核となる技術的な「特長」を産業化の視点から抽出する手法を確立し、それらをアーカイブ化するためのフォーマットの提示と内容を持続的に拡充するための更新の仕組みを提案することが本研究の目的である。本研究は3年間の計画であり、ケーススタディとして福岡県八女市に集積する伝統工芸を調査対象としている。 当該年度は、八女に現存する伝統工芸の基本情報を収集し、組合及び伝統工芸館が保管する資料調査とともにフィールドワークとヒアリングを実施して現状を把握した。これらの調査から現代のものづくりに活用できるアーカイブ化の視点として、「型」の概念を導出した。「型」に含まれる「シェイプ」「パターン」「スタイル」の3視点に着目し、伝統工芸技術を分類することにより、伝統工芸技術を現代生活に応用しやすいかたちで整理できるのではないかという仮説を立てた。「シェイプ」は、ものの形態を造形する技術、「パターン」は表面装飾やテクスチャを作る技術、「スタイル」は、ものを使用する様式や価値観と定義した。 この仮説に基づき、本年度は八女仏壇を対象に技術の特長を抽出し、職人、デザイナー、プロデューサー、商工会議所と共同で現代の生活用具に読み替える実験を行い、サンプルプロダクトを制作し、ニューヨークで発表した。プロダクト自体のデザイン、展示空間デザイン、コミュニケーションツールのデザインを「型」の概念をベースに一貫的に展開できるかどうかを確かめた。展示会場における来場者との会話を通して、伝統技術の読み替えに基づくプロダクトの現代生活への適合性、伝統の現代における文化的可能性、伝統の読み替えの市場性などの観点から、「型」の概念の有効性を考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は本研究の初年度にあたり、各伝統工芸に携わる工房の現状を網羅的に把握し、調査対象を明確にすることと、調査研究の基盤となる信頼関係とネットワークの構築を計画していた。 すべての工房の現状の詳細を網羅するには至らなかったが、おおむね全体像を把握することはできた。一方、ヒアリング調査やフィールド調査、さらに伝統工芸職人や商工会議所、地元で活動する方々との協働を通じて、予想以上に良好な信頼関係を構築できた。 特にフィールドワークの中で生まれた、仏壇の伝統技術に焦点を当てた、現代の生活用具への応用の実験的なプロジェクトからは、伝統工芸技術のアーカイブ化という本研究の目的に照らして貴重な知見が得られた。技術のアーカイブ化において「型」に着目するという着想を得て、型に含まれる3つの視点から技術を文節化できるのではないかとの仮説を構築するに至り、さらにこの仮説に基づくプロトタイプを制作し、本来は次年度に予定していた産業的視点に関わる展示まで実現できた点においては、当初の計画以上に進展していると言える。よって、全体的に見て、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、初年度に完成するに至らなかった工房の現状の網羅的、かつ詳細な調査を引き続き行い、より精度の高いデータを体系的に収集するとともに、当初の計画より進展して構築した仮説とその検証実験の結果を詳細に分析することで、より体系的なアーカイブ化を目指す。 当初の計画では、体系的な枠組みの構築を先行し、実験、実証する手順を想定していたが、福岡県八女市の職人や地元の方々との協働が予想以上に効果的に機能している現状を踏まえ、調査と仮説導出、実験、検証を交互に実施しながら、同時並行で体系化していく方針に調整する。とはいえ、体系化は重要課題であり、本年度は、実践的な手法を活用しつつ、確実に体系化につなげる新たな手法の構築を目指す。また、実践的な手法を導入することで新たに可能性として考えられる、デザインの現場で、より活用しやすいアーカイブの形態(データ構造、インタフェースなど)についても、あわせて検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度予算として計画していたのは、備品として伝統工芸サンプル収集のための予算、職人による専門知識の提供、作業撮影、資料整理のための人件費、及び旅費だった。工芸品サンプルに関しては、伝統工芸の工房や地元の方々の協力により、本年度に関しては必要なサンプルを購入する必要が生じなかった。人件費にかかる職人の専門知識の提供に関しても、工芸工房の好意により費用が生じなかった。資料整理に関しては、当初計画していた網羅的な資料収集の作業状況により、整理作業を次年度に実施することにした。旅費に関しては、当初予定していた福岡県八女市での調査は実施したが、今年度は、調査環境の有利な変化によって八女市の調査に集中することが合理的だと判断し、他の産地への出張調査は次年度に実施することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、前述の計画方針の調整に伴い本年度に計上していた網羅的な資料収集と体系化のために必要な撮影、資料整理ための人件費を使用する予定である。また、福岡県八女市以外の産地の調査及び、学会発表を計画しており、さらに次年度に計画している展示発表準備のための旅費を支出する。展示発表準備のための試作を含む工芸品サンプル、冊子制作費も計画通り支出する。
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