先進諸国での死因別死亡割合の75%以上が生活習慣病であり、ヘルスケアと予防医学の方策が研究されている。本研究では、体が不健康な状態になるにつれて、上腹部の柔軟性が失われていくことが経験的にわかっており、そのメカニズムを人体力学的に解明することを目的としてきた。外科手術や投薬に依存するのではなく、人体の仕組みを活かしたヘルスケアが実践されれば、生活習慣病のケアと、生活習慣病になる前に予防することとが可能になり、医療費や薬剤費が国の財政を圧迫することも防止できることになる。そこで、誰もが自分で感じ取れる上腹部の柔軟度を定量的かつ科学的に評価することにした。 上腹部柔軟度の計測を研究協力機関であるクリニックに通うボランティアに対して続けている一方で、汎用の小型ロボットアームを活用し、独自に試作したセンサユニットを用いて計測システムを構築した。押しバネを内蔵した直動機構を上腹部に当ててロボットアームで位置制御を行いながら先端部を押し下げる・上げる動作のアルゴリズムを構築した。正確な位置情報の計測のためにレーザ変位計を用い、圧縮力の測定には超小型のロードセルを用いた。熟練者の手を介さずに客観性を重視した上腹部の計測方法と解析手法の基礎を構築することができたと考えている。 ただし、迷走神経反射が自律神経系に影響を与えることとの相関を並行して調べることができていないため、呼吸に伴う上腹部の上下動と、上腹部を押した際の硬さとに変化が出るかどうかを検証する仕組みを構築している途上で本研究期間が終了した。今までに計測を済ませたデータの抽出手法と解析手法に関する成果は論文化の途上である。
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