研究課題/領域番号 |
16K00728
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
白髪 誠一 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (60635382)
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研究分担者 |
赤井 愛 大阪工業大学, 工学部, 准教授 (90578832)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 盲導犬 / y字型カーブハンドル / 歩行実験 / 形態最適化 |
研究実績の概要 |
盲導犬とユーザーの歩行時における盲導犬への負荷を定量的に把握するために歩行実験を行った。実験因子はハーネスのハンドル形態で,従来から使用されている「従来型ハンドル」,従来型の持手部分に角度をつけた「ねじり型ハンドル」および本研究で提案している「y字型カーブハンドル」の3種類である。盲導犬への負荷の計測は,盲導犬模型を製作し,そのハンドル取付位置に小型荷重計を設置して左右の負荷を計測した。盲導犬模型はH形鋼を用い,4つのキャスターを取付けて盲導犬がユーザーを誘導する状況を再現した。実験協力者は,学生,盲導犬ユーザーおよび盲導犬訓練士で,平成27年度に本研究の予備実験として行った学生の協力による歩行実験に加えて学生とユーザーによる盲導犬への負荷の差異についても調査を行った。 実験の結果,歩行時における盲導犬への負荷は実験協力者による差異は認められず2~15Nであることが明らかとなった。ハンドルの形態による影響は,従来型では盲導犬の左肩へ負荷が大きく偏ること,ねじり型は従来型よりも負荷のバランスは改善されるが左肩へ負荷が偏ることが明らかとなった。「y字型カーブハンドル」は実験協力者が左腕を楽な姿勢でハンドルを持った場合においても盲導犬の左右の肩へ均等に負荷がかかる結果となり,盲導犬とユーザーの双方の負荷を軽減していることが明らかとなった。 実験と並行してハーネスの形態最適化にむけた予備検討としてハンドルの設計領域の抽出を行った。盲導犬の3Dデータを用い歩行時および待機時において盲導犬の体型に沿う領域を抽出し,3Dプリンタで造形を行い確認を行った。また,ユーザーへの負荷を定量化するために基礎実験として盲導犬ユーザーの歩行姿勢に与えるハンドル形状の影響をモーションキャプチャーにより計測した。計測の結果,ハンドルの形状によりユーザーの左腕の姿勢に大きな差異があることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は,歩行時の盲導犬への負荷を定量的に把握するために盲導犬模型を用いた歩行実験を実施した。実験に用いたハンドルは,これまでの研究成果より得られていたハンドル形態の楕円型と直線型を用いた歩行実験を計画していたが,楕円型を基にプロトタイプ「y字型カーブハンドル」を製作し,歩行実験に使用した。「y字型カーブハンドル」は楕円型に比べて形態を盲導犬の体型に合わせ,盲導犬ユーザーに使用性を確認しながらサイズを決定している。この「y字型カーブハンドル」は数名の盲導犬ユーザーが実際に使用を開始しており,継続的に使用性のヒアリングを行っている。プロトタイプの製作と検証については,計画よりも進展している。歩行実験は直進歩行と蛇行歩行を計画していたが,盲導犬への負荷は,歩行時の大部分を占める直進歩行時における負荷が重要であると判断し,蛇行歩行については実験を省略した。 有限要素解析によるハンドルの応力伝達状況の確認については,プロトタイプ「y字型カーブハンドル」の設計・製作を先行したために解析結果の考察には至っていない。今後,「y字型カーブハンドル」の解析モデルを作成し応力解析によって歩行実験結果との比較を行う予定である。 ユーザーへの負荷を定量化するための歩行観察および生理計測については,モーションキャプチャーによる計測を導入した。基礎実験の結果,ユーザーの筋的負荷のシミュレーションの可能性を確認することができた。
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今後の研究の推進方策 |
歩行実験の結果,実用できる「y字型カーブハンドル」を用いたときの盲導犬への負荷に関する基礎情報を得ることができた。これに有限要素解析による検討を加えることでハンドルの形態による盲導犬への負荷の定量化を目指す。 盲導犬への負荷を定量化することでハンドルの形態を決定する上での重要な要因の抽出を行い,それをパラメータとする最適解の導出を実施する。形態最適化の基礎資料となる設計領域は予備検討により得られており,これに基づき形態最適化を実施する。得られた最適解に対する検証は,3Dプリンタによる造形を用いたプロトタイピングにより行い,プロトタイプと検証を効率的に行うことで最適解の精度を高めることを目指す。 盲導犬ユーザーに対して行ったモーションキャプチャーによる計測は,ハンドルの形状がユーザーの姿勢に影響を与えていることが明らかとなった。盲導犬ユーザーにヒアリングを行い,主観による印象と計測結果との相関について検証することでユーザーの負荷を軽減するハンドル形態を得る。さらにモーションキャプチャーの計測結果を基にユーザーの筋的負荷のシミュレーションの可能性についても検証を行う。 歩行実験,形態最適化およびモーションキャプチャーによる計測結果を統合して,盲導犬とユーザーの双方の負荷を軽減するハンドルの開発を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた3Dプリンタよりも大型の造形物が製作可能な3Dプリンタを導入するために助成金の前倒し請求を行っている。請求額に備品等の費用に余裕を見込んでいたために若干の次年度使用額が発生した。 ユーザーに対する生理計測のための計測機器を導入予定であったが,計測項目および計測機器の選定にあたり筋電計測とモーションキャプチャーの検討を行った。基礎実験として既存のモーションキャプチャーにより計測方法の検討を行ったために計測機器の導入に至らず次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
形態最適化の実施のために,モデリング用PCは計画よりも高性能なワークステーションを導入予定である。また,既に導入している構造解析プログラムのバージョンアップ費用,y字型カーブハンドルのプロトタイプの製作費用を見込んでいる。 生理計測については,基礎実験の結果を基に計測項目と計測機器を決定し導入する予定である。
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