研究課題/領域番号 |
16K00753
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
金子 省子 愛媛大学, 教育学部, 教授 (80177518)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 母乳哺育 / 母親期待 / 乳児保育 / 保育者 / 保育学習 |
研究実績の概要 |
母乳分泌という女性の身体的特性にかかわる養育行動は、男女平等社会における養育のあり方を考察する鍵となる養育行動である。本研究は、戦後の母子保健施策、人工栄養法の開発、そして就労環境・保育環境の変化をふまえ、授乳(母乳栄養、人工栄養などの栄養法を含むものとしての)に関する多様な媒体における言説を分析して、授乳に関する当事者の意識・行動の変化にこれら社会的要因がどのように影響を及ぼしてきたのかを明らかにするものである。 本研究者はこれまで、母乳哺育に関する言説の史的変化を明らかにするべく、家庭科教育における母乳哺育と母親観についての考察等を進めてきた。昨年度は、乳児保育の場における乳児栄養に関する動向と保育者に向けての言説に焦点をあてて成果をまとめた(「保育者養成テキストにみる母乳哺育観」)。今年度は、さらに広範な資料を対象とし、多様な媒体に見られる母乳哺育観を把握することとした。親と子ども双方に影響を及ぼすという点で特色をもち、家庭科保育学習においても活用される絵本に着目し、登場人物や主題、授乳の描写の視点より分析・考察した(「養育行動を描いた絵本について-家庭科保育学習教材としての検討」)。その結果、父親やミルクによる授乳はほとんど描かれず、母親と男児という関係性での描写が主で、女児は将来の母親としての視点で描かれるという授乳におけるジェンダーバイアス、現実の多様な授乳状況については反映されていないことなどが明らかとなった。 以上のような多様な媒体における言説の動向から、本研究でインタビューを行う女性たちの青年期から出産・育児期において、影響を及ぼしてきた社会的要因についての分析視点を検討することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は乳児保育の担い手となる保育者に影響を及ぼすと考えられる資料を用い、1960年代以降の授乳観と母乳哺育観の変遷を捉えた。これにより、乳児期の就労と子育ての両立にかかわる乳児保育の環境における授乳観・母乳哺育観と母親や保育者への期待の変化を捉えることができた。 今年度は、さらに分析対象を拡大し、これまであまり分析対象とされてこなかった養育行動を描いた絵本という媒体に着目した。そして、おとなと子どもが共有する絵本に描かれた授乳に関して、母乳授乳以外の実態が反映されていないこと、母親への期待、さらには将来の母親としての女児への期待の位置づけについて考察することができた。これらの資料分析に基づく研究成果については、それぞれに投稿をし、公表をしている。 次年度はこれら多方面における資料分析で得られた授乳についての言説の変化を1つの軸とし、授乳に関する分析視点を精緻化して、1960年代から1980年代に子育てを行った女性に対するインタビューの実施・考察を行うことができる。
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今後の研究の推進方策 |
授乳関連施策、就労・保育環境の変化をふまえ、これまでの親を対象とした授乳関連言説にとどまらず、青年期の保育学習、保育者養成、おとなと子ども向けの絵本という媒体など広範な資料を用いて、戦後日本の授乳にかかわる言説を分析・考察してきた。 これらの資料分析をふまえ、今後は、子育ての当事者が、授乳関連施策や就労・保育環境の変化を背景に、個々人の受けた教育、職種や保育環境、家族関係のなかで、どのような言説の影響を受けて、栄養法の選択など授乳に関する決定を行ってきたかを、インタビューにより明らかにしていく。インタビュー調査にあたっては、半構造化インタビューを予定しているが、自身の2010年代の母親対象のインタビュー調査分析による研究(「母乳哺育についての母親の意識の変容過程に関する研究」乳幼児教育学研究第21号19-27、2012年)をふまえ、2年間の資料分析による観点の整理より、質問内容と地域におけるインタビュー協力者の属性の絞込みを行い、実施することができると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:旅費が、予定よりも下回ったことによる。 使用計画:次年度使用分に組み込み使用する。
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