本研究では、授乳に焦点を当て、戦後日本の母子保健施策、乳児栄養関連施策、人工栄養法の開発などの授乳に関する環境の変化を捉えるとともに、養育や授乳にかかわる親の就労環境・保育環境の変化を整理し、これらの変化を背景とした授乳に関する多様な媒体における言説を分析してきた。 これまで母親向けになりがちであった育児情報媒体の分析を相対化するため、父親向けの情報における授乳の位置づけや乳児保育にかかわる保育者向けの授乳関連情報など、母親以外の授乳者を想定した授乳情報について対象化し分析を行ってきた。また、おとなと子どもが共有し得る絵本という、親になる前から触れる可能性のある媒体についても分析を行った。このようにこれまで分析対象とされてこなかった媒体を幅広く取り上げ、ジェンダーに敏感な視点からの言説の考察を行って、平成28年度、平成29年度と学会発表および論文投稿を行ってきた。 最終年度は、これらの資料分析より得られた成果をふまえ、1950年代以降の日本の母子保健施策、人工栄養品の開発・販売、女性の就労状況、乳児保育の場における授乳動向、栄養法に関する実態の変遷を明らかにし、授乳関連の時代画期を捉えた。そして、養育者に対し影響を及ぼしてきたと考えられる授乳についての言説の変化との関係を明らかにし、当時のインタビュー内容などを分析して投稿中である。また、これら社会的要因の史的変化を背景とした個々人の意識・行動の実際を明らかにするための当事者調査については、予備調査に着手し調査協力者を絞り込むための作業を行っている。
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