2018年度の前半は、研究成果の一部を審査付論文にまとめ、日本建築学会第36回地域施設計画シンポジウムにて口頭発表及び有識者との意見交換を行った。その主な内容は、高齢者生活支援ハウス(以下、ハウス)が運営されてる市町村の中でも、インフラ整備水準が高く、社会資源が豊富な札幌市における事例検討である。 ハード面においては、ハウスの建築形態をデイサービスや特別養護老人ホームなどとの複合建築とすることで、新築時のコスト削減や敷地の有効活用、関連施設間で必要要件とされる諸室を共用できるメリットが見られた。こうした利点が基となり、入居者が屋内の廊下・通路を利用して年中歩行訓練などが可能となるほか、入居する施設の枠組みを超えた人的交流を促す効果を把握した。 さらに、ハウスに求められるニーズの変化も明らかとなった。運営に関する経年変化を詳細に調査した結果、近年では入居者の高齢化と多様化が著しく進み、事業主体の行政から紹介される新たな入居者を受け入れる際に、ハウスの運営を委託されている社会福祉法人等における課題が複数見受けられた。低所得の人や障がいを複合する人、虐待を受けて入居する人など、緊急度の高い低い入居者を受け入れる際のマッチングと入居後の支援に関する問題などが深刻化している。 こうした課題が全国的な問題となっているかを検証するため、2018年度後半は、全国のハウス500件を抽出し、運営と建築特性に関するアンケート調査を実施した。調査対象は、寒冷積雪地域のほか、東京都や沖縄県の事例も含め、高齢者の地域居住継続上の課題を多角的に分析することを目的とした。調査には2割程度の有効回答が得られた。過疎中山間地域においては、ハウスの建物規模が極小化する傾向にあるが、入居者が日常的に利用する地域の診療所が交流拠点となっているなど、社会資源が少ない地域において、都市では見られない利点も複数把握した。
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