研究課題/領域番号 |
16K00779
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
雨宮 敏子 お茶の水女子大学, 理系女性教育開発共同機構, 助教 (80750562)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 消臭 / 被服材料 / におい / 媒染染色 / 銅 / エタンチオール / 綿 / 羊毛 |
研究実績の概要 |
本研究は,天然繊維を消臭機能の担体とし,通常の媒染染色の手法を用いた簡易な調製条件で高い消臭性を示す消臭布の設計指針を得ることを目的とし,消臭機構の解明を追究するものである.これまでに,悪臭モデル物質としてエタンチオールを用い,主として遷移金属である銅の酸化分解作用により除去が行われること,銅には繊維高分子に担持されるタイプと染料が配位するタイプの2種類があり,反応速度や特性が異なることが示唆されてきた. 平成28年度は,綿布,羊毛布,絹布を直接染料と銅塩を用いて媒染染色した場合と,染色のみ行った場合の布の表面反射スペクトルを測定した.綿については,媒染により染料水溶液のもつ最大吸収波長付近にスペクトル変化が現れ,銅と染料との配位の存在が分光的に確認できた.羊毛と絹については,染料の銅への配位はスペクトル上確認できなかった.担持した銅の大部分は繊維高分子のカルボキシ基と結合しており,染料が配位した銅は確認できない程度に少なかったものと考える. 次に,消臭布周辺の水分が消臭特性に与える影響を調べた.直接染料と銅塩で媒染染色した試料布を,飽和塩法で調湿した容器内に1晩放置し,消臭実験に供した.調湿した試料布をテドラーバッグに入れて静かに脱気し,予め所定の湿度と濃度に調製したチオールを含む空気を,布が入ったテドラーバッグに導入し,気相におけるエタンチオール残存濃度を気体検知管で経時的に測定した.その結果,いずれの試料においても高湿度下でチオールの除去速度が顕著に高くなった.水にチオールが溶けて銅に接近しやすくなるなど,消臭機構への水の関与が明らかとなった. 繊維種や銅の担持形態,系の水分により消臭機構が異なることを示したことは,使用状況に合わせて消臭機能を制御可能とし,高性能な消臭布の設計を行うために意義深い成果であると考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度として計画していた通り,直接染料と銅塩により調製した媒染染色布が担持した銅に,繊維高分子のカルボキシ基に担持されたタイプと染料が配位したタイプとの2種類が存在することを,布の表面反射スペクトル測定を用いて確認することができた.特に綿布において配位型銅が多く,羊毛布や絹布ではカルボキシ型銅が多いことが分光的に明らかとなったことは,エタンチオール除去機構の解明や除去機能の制御の一助となる. 測定系における水分の影響については,恒温恒湿室を所有していないため,テドラーバッグ内の湿度の制御技術を取得するまで試行錯誤する時間を要した.最終的には,テドラーバッグ内に飽和塩水溶液にバブリングした空気を通すか,所定量の水をシリンジで直接注入して拡散させる方法で所定湿度に調整した空気を,飽和塩法で湿度調整した容器に保管しておいた試料布を入れたテドラーバッグ内に導入することで,目指す環境をつくることに成功した.測定系の水分が,エタンチオールに対する消臭速度に影響することを示すことができた. また,平成28年度の計画にはなかったが,悪臭モデル物質としてエタンチオールだけでなくアンモニアと共存させた場合の複合臭の除去特性について,当初の計画予定より早めに着手し,すでに予備実験の一部を行っている. 今年度の配分経費についてはほぼ当初の予定通り,物品購入および学会への旅費等に全額充てることができ,研究の遂行を円滑に行うことができた.本研究の成果に関連し,学会発表6件(うち筆頭発表4件)を行った.以上より,概ね順調な進捗状況であると考える.
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度で媒染染色布に対する銅の担持状態が明らかになってきた.平成29年度は,調製した消臭布に担持させた銅の分布や価数の状態を調べるためX線光電子分光分析を委託し,銅の担持状態をより詳細に理解する. 媒染染色布によるエタンチオールの除去特性について,酸化分解による除去と布への吸着による除去を分離して検討するため,炎光光度検出器を用いたガスクロマトグラフ法を用い,より詳細にエタンチオールの除去機構を追究する.気体検知管法では確認できなかったエタンチオールがジエチルジスルフィドに酸化分解される量が定量できるため,初期エタンチオール量からの差し引きにより布への吸着量を算出することが可能となる.また,分解速度および吸着速度について反応速度に焦点を当てた検討や,アニオン染料である直接染料以外にカチオン染料を用いた場合の比較検討も行う. 複合臭に対する除去ついてはすでに一部着手したが,主として酸化分解による除去が行われると考えられるエタンチオールに複合する悪臭モデル物質として,アルカリ性であるアンモニアや酸性である酢酸を用い,より実用に即した状況について調べる.異なる除去機構を持つと考えられる複合成分の除去機構について追究し,最終的にはにおいストレスのない快適な衣住環境の創造へ貢献すべく,研究を進めていく. 平成29年度の研究成果の公表については,学会発表3件,報文投稿1件以上を予定している.配分経費については計画通り適切に過不足なく使用する.
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