本研究は,天然繊維を消臭機能の担体とし,媒染染色の手法を用いた調製条件で高い消臭能を示す消臭布の設計指針を得ることを目的とするものである.主として遷移金属である銅のチオール酸化分解作用を利用しており,昨年度までに直接染料と銅塩による消臭綿布および羊毛布のチオール除去特性における,銅の担持形態や環境湿度が与える影響などについて調べてきた. 平成30年度は,実生活で問題となる悪臭は単一成分によるものではないことから,応用的位置づけとして複合臭に対する除去特性ついて追究した.これまで扱ってきた酸化分解による除去が行われるエタンチオールに,酸塩基中和による除去が行われるとされるアンモニアまたは酢酸を共存させたモデル複合臭に対する媒染染色布の除去能について,気体検知管法やガスクロマトグラフ法を用いて検討を行った.本実験条件範囲内において,エタンチオール単一成分の場合に比してアンモニアを共存させた方が高いエタンチオール除去能を示す濃度条件があることがわかった.アンモニアに対する除去能についてはエタンチオールの有無に依存しなかった.消臭実験前後の媒染染色綿布の表面反射率から得られたK/Sスペクトルより,アンモニア除去に伴う銅アンミン錯体の形成が示唆され,このことがエタンチオール除去の促進に寄与したものと考えられる.一方,エタンチオールと酢酸の共存系においては,いずれの成分も非共存下における消臭能との差は見られなかった. 本研究期間において,古来一般的に行われてきた天然染色の手法である媒染染色を,化学染料を用いた現代の機能性繊維開発に応用し,悪臭物質に対して異なる除去特性を持つ消臭布の開発と除去機構の解明を行った点は意義深い.混紡や交織などの混用を行うことにより用途に適した消臭布が設計可能となり,快適な衣住環境の創造への一助となるものと考える.
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