研究課題/領域番号 |
16K00784
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
夫馬 佳代子 岐阜大学, 教育学部, 教授 (70249291)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 高齢者衣服 / ユニバーサルデザイン / 衣服の着脱 / ボタンの改良 / 家庭科の教材開発 |
研究実績の概要 |
平成28年に実施した研究成果(具体的内容と意義) (1)高齢者の生活場面の観察・交流―高齢者の着装上の困難な点を明らかにするため、高齢者施設における観察・調査を実施した。実施項目は①聞き取り調査に使用するアンケートを作成、②高齢者施設を訪問し、衣服についての聞き取り調査を実施し具体的な問題点を明らかし、③調査から得た高齢者の意見・要望をもとに衣生活において早急に解決する課題を絞り込み、今年度「衣服の着脱時に抱える問題」の問題解決に取り組んだ。 (2)各高齢者の体調と抱える衣生活の課題の追究―聞き取りの予備調査の結果から、高齢者が抱える衣生活の問題として「着脱の際に留め具で困難が生じている」という意見が多くみられた。特に既製服に使用されるボタンは、高齢者にとっては【小さく扱いにくい留め具】であることが明らかとなった。そこで留め具が留められない場合の対応策を考案した。今年度は、掴みやすい形状のボタンの開発、暗がりでもボタンの認識ができる蓄光ボタンの考案、市販の磁石ボタンをさらに掴みやすくした磁石ボタン等の開発を試みた。(3)学校教育において既製服からの改良(リフォーム)の提案―高齢者の衣生活の実態調査をもとに問題解決を行い、学校教育を通して、既製服からのリフォームを提案する。具体的には、①高齢者の一人一人の体の状態に合わせて、既製服を改良することにより、衣生活が変わるを体験した。②中学生の環境問題と関連してリフォームを実践的に学ぶ事を試みた。③小・中学校段階で習得した基礎技術が生活で活用できる場面を体験した。④既製服が着用できない人々もいることを認識する学習を取り入れた。⑤中学校家庭科において、ユニバーサルデザインに考える場面を作り、副読本のテキストも考案し用いた。以上の5点について、中学校家庭科授業にユニバーサルデザインの授業を取り入れた。授業の成果については、次年度に報告する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究成果の自己評価については順調に進展していると評価。特に高齢者の衣生活の実態調査をもとに課題を明らかにし、実生活に根差した家庭科教材の開発に着手した。 (1)高齢者の生活実態と衣生活の課題を実感を伴い伝える(生活観察と意見)―高齢者の生活実態(生活観察)と衣生活の課題(意見・要望から)を生徒に実感を伴い伝えることを目的に、教材開発に取り組んだ。実態調査を学習プリントに反映し、高齢者一人一人の体が抱える現状と衣生活で抱える問題や願いを明確に示す学習プリントを作成し、授業を通し、個々の具体的な実生活の問題に取り組むという意識を育てることに取り組んだ。 (2)高齢者が抱える衣生活の問題を実感を伴って考える(模擬体験)―中学校の衣生活の授業において、高齢者の着脱における困難さを時間を伴い検討するために模擬体験を導入した。住生活では高齢者の視点で学校内を歩くなどの模擬体験を生かした学習活動が積極的に導入されるが、衣生活における模擬体験の導入は少ないが、興味関心を高めた。研究教材では、軍手を両手にはめ手指が自由に動かせない状態で、どの程度既製服の着脱が可能であるかを体験した。手指を自由に使えることが当然であり、衣服の着脱を問題として認識したことが無い中学生が、手指の感覚が少し鈍ることが、日常の衣生活に多大な影響を与えることを実感を伴い学ぶことができた。授業後の感想からも成果が見られた。 (3)取り組む姿勢を見せる(教師が考えた衣服改良)―教師が介護施設を訪問し、実際に高齢者と交流する姿勢を授業の中で紹介することにより、教師も教える立場のみでなく、生徒と同様に学び、チャレンジする姿勢で授業にのぞんでいることを示した。 家庭科における生活の創造は、実生活を観察し、実際の問題点に気づき、その問題を当事者とともに解決することであるが、ユニバーサルデザインを通して研究目的の一部は実現できた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策は、高齢者衣服の開発を継続すると共に、教材開発と授業実践に重点を置いて取り組んでいきたい。ユニバーサルファッションを考える授業構想を検討する。 (1)ユニバーサルファッションを通し生徒の自由な発想を育てる(創造・創作)―学習活動としては、生徒各自が高齢者の衣生活の実態や要望を知り、模擬体験を通して高齢者の衣服着脱の困難さを実感した上で、各自が自分の発想でそれぞれの高齢者のための衣服の改良案を考案する。この段階では、自分の発想を形に転換できるよう、図で簡略に示せるように留意し、具体的に自ら新しい改良服を発信できる、授業実践に取り組む。 (2)生活実態をふまえた問題解決学習への取り組み(問題解決と実現)―各自の発案をもとに、グループで検討を行う。高齢者の個々の体の状態や願いをもとに、どのように解決することが可能であるか、交流を繰り返す。この場合の留意点は、漠然と考えるのではなく、実際の高齢者の願いをどのように形にするか、既製服のどの部分を改良すると、要望に対応することができるのか。自分の技術で可能であるか、着用するとどのような状態になるか等、より具体的に確認しながら検討を重ねる。中学生が考える改良服で用いる留め具は「ファスナ―」「大きなボタン」「面テープ」「ゴム」などが多く見られる。こうした検討を重ねた上で、小中学校で習得した基礎技術をもとに既製服の改良に取り組む予定である。各グループが改良した既製服を、高齢者の人々に着装してもらい、着脱のし易さや着心地等具体的に検討会を行い、自分の生活改良の提案が、実生活にどのような変革をもたらすことが可能であるかも実感として体験する。 上記のユニバーサルデザインの授業実践をもとに、中学校家庭科で取り組める、ユニバーサルデザインの教材開発にも取り組む予定である。
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