最終年度には、共同研究者とフランスにて社会的配慮を要する高齢者の居住実態に関する討議を行い、これまでの研究成果を発表した。また、住宅確保要配慮者に向けられたフランスの住宅政策の動向に関する資料を収集するとともに、支援団体や行政の担当者へのインタビュー調査を行い、共同住宅に居住する単身高齢世帯に向けられた居住支援の実態や社会賃貸住宅部門における支援制度の概要を把握した。 研究期間を通して、高齢期の住まいとしての共同住宅の可能性を探るため、国内では、高齢者が多数居住する高経年の共同住宅での事例研究をすすめた。具体には、共同住宅という居住形態と結びついた高齢居住者の住生活上の課題や、共同住宅の管理システム、共用空間の存立意義を探る調査を実施し、若年層よりも高齢層に共同住宅居住を肯定的に捉える傾向が強いこと、高齢期の住み替え先として共同住宅が選択されていること等を見出している。さらに、建物のバリアフリー化をテーマとして、課題解決のための具体的な方法に関するワークショップを実施し、他の居住者との協同が日々の住生活の改善に寄与するのみならず、将来の居住不安の軽減にも寄与する可能性があることを確認した。他方、韓国では、共同住宅の建設時に「敬老堂」と呼ばれる高齢居住者のための共用空間を設置することが義務付けられていることから、その使われ方を調査し、互助に基礎づけられた高齢者福祉の場となっていることを把握した。3か国を比較すると、個を生活単位とみるフランスと、家族を生活単位として措定する傾向の強い日韓では、互助や共助、公助の捉え方や期待に差異があるものの、共同住宅の共用空間が居住者相互への関心を誘発すること、それが高齢居住者の居住の安定に寄与する可能性を有していることを把握した。
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