研究課題/領域番号 |
16K00794
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
黒石 いずみ 青山学院大学, 総合文化政策学部, 教授 (70341881)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アメリカ住宅史 / 第二次世界大戦期の住政策 / 社会住宅思想 / 占領期住宅再建事業 / ハウスビューティフル / ケーススタディハウス / 小規模住宅のデザイン / インダストリアルデザイン |
研究実績の概要 |
大きな研究目的として、都市・建築デザインと空間を社会的・文化的視点から再考し、近代化過程における技術の発達が既存の住習俗とどのような矛盾を生じ、その問題がどのように現代にまで受け継がれてきたかを技術的理念と社会や生活の生態・心理的側面や地域文化、家族の経済的環境に伴う変容と関連づけて考察することを上げている。そして住宅史や計画学の領域における既往研究の知見を整理し、関連する社会学や比較文化、日本研究の領域との共通する課題の成果を把握し、さらに海外における同時期の都市や住宅の開発と戦時期の社会思想・デザイン思想の事象とも、同時代的な比較分析を行うことを目的としていた。そして具体的にはライフスタイルの概念、プレハブ住宅をめぐる問題、住宅政策のデザインへの影響、メディアの影響に焦点を当てることを意図して研究を行っている。 平成28年度には、当初の計画で掲げた既往研究の批判的検証、米国の東海岸と西海岸における戦時中の労働者住宅開発・戦後の社会住宅開発・郊外住宅地開発の事例を見学し調査すること、各州における様々な関連する法制度の変化の調査、地域のメディアを中心とする市民の受容の歴史過程の調査を行うことが予定されていた。またそれに並行して米国のアーカイブを中心に文献調査を行うことを予定していた。 年度の初頭には研究休暇を活用して、上記の調査項目の多くを実施することができた。特にワシントンにおけるナショナルアーカイブでは、日本国内では困難な戦時期・戦後資料の多角的調査が実現できたことは研究に新たな視点をもたらすきっかけとなった。各州における住政策の変化と住宅思想の変化についても多くの既往研究を得ることができただけでなく、主要な研究者との交流も始めることができた。住宅の技術的な発達の問題については、当初予定していなかった米国やヨーロッパ、アジアの研究者との交流も始まり有意義だった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アーカイブでは当初の計画で予定したよりも膨大な原資料にアクセスすることができたので、予想以上に時間がかかってはいるが、その資料の理解と関連性の開拓の可能性は深まっていることを実感している。文化的・社会的視点、また国際的な同時代性、一般の人々の生活や心理に根ざした問題設定がどう可能かを常に模索して研究を進めているが、歴史的な資料の厚みがその探求を支えてくれていること、またこの研究の世界的な位置付けと意義を実感できている。アメリカにおける既往研究の広がりもほぼ理解できてきたと思う。 一方で現地でのインタビューや資料の収集には思いがけない困難が発生しているので、米国の共同研究者の支援も得て、その方法の組み直しをする必要も生じている。 現在の時点で計画よりも資料の収集がまだ不足している分野、現地調査ができていない場所の調査を継続すると同時に、これまでに得た知見のおさらいとともに新たに得た視点の位置付けと資料の基礎的分析、研究の方向性の調整を行なって研究の方向性がより焦点を明確にできるようにすべきだと感じている。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画どおりに、アメリカを中心に収集した戦後の住宅思想や政策、産業に関する資料を基にして、その日本における影響と問題の調査研究を行う予定である。ただし、当初の問題設定にあった現代的な住宅問題との関係やそのグローバルな意味を考える上では、アメリカの戦後だけでなく、同時期にそれとは全く異なった住政策を掲げていた海外の事例も合わせて基本的な理解をすることが必要だと実感している。イギリスの学会などで交流したオランダの研究者、アジアの研究者らとの交流、さらにアメリカのこれまで深く関係を持たなかった地域の研究者との交流が始まっているので、本研究の位置付けと探るべき視点についての考察はさらに行なっていきたい。 日本における当該領域の既往研究のリサーチは基本的なレベルでは行えているが、問題意識を明確にして、これまで注目されていなかった事例や視点の開拓も行なっていきたいと思っている。
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