研究の最終年度として、日本国内の住まいを中心とした耐久消費財の普及、住まい空間での消費活動についての言説の変容、建築産業界での多様なマーケットの出現、デザイナーの職能の変化とデザインに関連する言説の変化などについての一般的資料と専門的資料を、戦後から60年代までを中心にして、国会図書館と日本建築学会図書館を中心にして吸収し、関連する既往研究も集めて検討を行った。 また冷戦期の文化政治の状況に関連する、近年の研究を広く学び、建築やインテリアデザインに関して日本の冷戦期の言説とデザインの変化がどのように議論されているのかを、政治社会学・経済学の分野から検討した。研究の目的である戦後日本の住生活と消費経済、住宅建築デザインと工業化や市場との関係の理解という点で、建築やデザイン史の領域を広げた理解をこれらの資料収集と考察によって深めることができた。現在、戦後の建築生産と生活様式の関連性と、居住地の変動との関係についても検証している。 実施計画における調査から考察・論文化あるいは学会での意見交換という展開については、紆余曲折を経ながらも有意義な経験を積み重ねている。例えば第二年度に行なったイギリスでの議論を上記の資料をもとにさらに深めて、ブライトン大学からの出版物に参加執筆するべく現在執筆中である。またオランダのデルフト工科大学において、5・60年代の住宅計画の建築史的な意味についての論考を講演し、社会住宅の理念と消費経済の関係について、戦後から現在に至るまでのヨーロッパでの変化についての議論を行った。この活動をきっかけに、逆に日本の研究者との交流が広がった。そのほかに、戦後の日本の生活空間の美学の問題として、伝統的生活美学の表現がどうアメリカ的な価値によって変容したかについても調査し、建築デザインへの影響を検討した。この成果はまた別の日本語の著作として出版する予定である。
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