本研究は、中山間地域を含む小都市の高齢者の転居志向と阻害要因の観点から、都市部とは異なる高齢者住宅のあり方を示すことを目的としている。平成30年度は、中山間地としてN市と合併した旧K町の住民111名に対しアンケート調査を実施し、96名から回答を得た(回収率86.5%)。 高齢期の転居願望は「大いにある・少しある」が15.6%、「どちらともいえない」が18.8%、「あまりない・ほとんどない」が65.7%であった。市街部(前年度結果)と比較すると、統計的な有意差は認められなかったが、やや転居願望が低い傾向が読み取れた。 転居願望の有無により積極群・葛藤群・消極群として分析をおこなった。転居の抵抗感は「ない」とするのが積極群(6.7%)・葛藤群(11.1%)・消極群(57.1%)であり、一方、「あり」とするのは積極群(93.3%)・葛藤群(33.3%)・消極群(57.1%)でああった。市街部では転居願望に依らず抵抗感が大きい傾向があったが、中山間地では転居に積極的な者は抵抗感が大きく、消極的な者は抵抗感が小さい傾向があった。 阻害要因として、属性、社会活動、住居所有関係、転居経験等を挙げ、転居願望による残差分析をおこなった。5%水準で有意差が認められる項目はなかったが、「男性」「75歳以上」「同居」「社会活動あり」「自身で取得した土地」において消極群が、「女性」「単身」「相続した土地」「共同住宅での居住経験なし」において葛藤群が、「65歳以上75歳未満」「夫婦のみ世帯」において積極群の比率が高い傾向が読み取れた。 転居の不安内容については、「転居後の生活費」「墓地の管理」「現住居の処分」「転居費用」「転居後の生活」において「不安あり」の比率が高かった。この結果は市街部と同様であったが、市街部に比べて不安ありの比率が低くなっていた。
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