研究課題/領域番号 |
16K00811
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
久本 雅嗣 山梨大学, 総合研究部, 准教授 (00377590)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ワイン |
研究実績の概要 |
赤ワインの渋味(収れん作用)の主成分は、ブドウの種子や果皮由来のプロアントシアニジンである。その化学構造は、カテキン、エピカテキンなどのフラバン-3-オール(カテキン類)が重合した構造を基本骨格とし、様々な修飾や変換を受けて多岐にわたっている。特に、色調の保持としての機能以外に、高分子色素重合体は呈味の深みや複雑さ・良質の渋味を与え、おいしさを構成する重要な役割を担っている。そのプロアントシアニジンは高分子であるため、そのままの状態で化学構造を分析することは難しい。そのため、加水分解により低分子化し、求核剤で誘導体化後、HPLC分析を行う方法がある。現在、求核剤として一般的に用いられているのは、フロログルシノールとベンジルメルカプタンである。これら求核剤を用いた方法(Phloroglucinolysis (Kennedy and Jones, 2001)とThiolysis(Thompson et al., 1972))は、その反応性、再現性の良さから使用されている。この2つの方法には、それぞれ長所、短所がある。ベンジルメルカプタンを用いたチオリシスはフロログルシノリシスと比較し、分解生成物の収量が多い反面、ベンジルメルカプタンは催涙性の強い刺激臭のため、「公害対策基本法」において公害とされ、「悪臭防止法」によりその使用が規制されている。一方、フロログルシノリシスは、無臭で取り扱いが簡便だが、チオリシスと比較すると分解物の収量が少ないことが問題である。 以上、上記の2つの方法の長所を併せ持ち、反応性、再現性が良く、環境に負担のない「1-ドデカンチオールを用いたプロアントシアニジン分析方法」を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新しいプロアントシアニンジンの分析方法を開発するにあたり、求核剤として1-ドデカンチオールに注目した。この化合物はベンジルメルカプタンと同様のアルカンチオール系の化合物であり、高い反応性が期待できる。また、1-ドデカンチオールは無臭の化合物で、安価に手に入る。本研究では1-ドデカンチオールを用いた新しいプロアントシアニジン分析方法を開発することを目的とした。 まず、1-ドデカンチオールによって生じるカテキン類誘導体について、その化学構造とモル吸光係数は明らかするため、5.00 gのカベルネ・ソービニヨンの種子抽出物と1-ドデカンチオールを用いたチオリシスを行った後、分取HPLCにより3つの誘導体を得た。NMR分析の結果、化合物1((-)-Epicatechin-4β-dodecanethioether)、化合物2((+)-Catechin-4α-dodecanethioether)、化合物3((-)-Epicatechin-3-O-gallate-4β-dodecanethioether)と決定し、モル吸光係数を算出した。 次に上記で分取した誘導体を用いて、1-ドデカンチオールを用いたチオリシスを行った結果、ブドウ種子由来プロアントシアニジンについて、現在広く使われているフロログルシノリシスと比較し、高い収率が得られた。本研究の結果より、1-ドデカンチオールを用いた方法の利点として、フロログルシノリシスよりも使用する薬品の数が少なく、反応時間も短い点、従来のチオリシスの欠点であった強悪臭を生じず、取り扱いやすい点が挙げられる。以上のようなことから、1-ドデカンチオールを用いた分析方法は新しいプロアントシアニジン分析方法として有効であるが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
赤ワインの熟成期間にアントシアニン類と縮合型タンニンの両方で高分子色素重合体を形成し、赤ワインの色調に大きく影響を及ぼしている。縮合型タンニンは、C4-C8の間のフラバン結合を介して結合した高分子のフラバン-3-オールであり、ブドウにおけるそれらの構成単位は主にカテキン・エピカテキン・エピカテキンガレート・エピガロカテキンである。モノマーは渋味よりも苦味があるが、平均重合度が増加するにつれて渋味も増す(Noble 1994)。平均重合度に加えて、プロアントシアニジンのサブユニット構成比は渋味を決定する重要な要素であると知られている(Quijada-Morín et al. 2012)。しかし、上記のようにプロアントシアニジンに関する報告は見られるが、化学構造が複雑で且つ分子量が大きい赤ワインの高分子色素重合体の研究に関する報告はほとんどない。 以上より本課題は、赤ワイン中に存在する高分子色素重合体を分子量ごとに分画し、前年度に開発した「1-ドデカンチオールを用いたプロアントシアニジン分析方法」を使用して、分画した高分子色素重合体の構造と渋味の調査を行い、高分子色素重合体の化学構造が赤ワイン中において呈味にどのような影響を与えるか明らかにすることを目的とする。 具体的には山梨大学ワイン科学研究センターで製造したカベルネ・ソーヴィニヨンワインをToyopearl HW-40Fに供し、高分子色素重合体画分を得る。この画分を限外ろ過で分子量ごとに分画する。各画分の色調を調べ、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して分子量で分画できているか確認する。さらに、各画分の総フェノール量や、1-ドデカンチオールを用いたプロアントシアニジン分析方法を使用し、その中のフラバン-3-オールの組成や糖組成を求める。合わせて各画分とカテキンやブドウ種子抽出物を対照として官能評価を行う。
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