アントシアニンは不安定な化合物であり、他の化合物との誘導体を形成することによって、安定化することが知られている。アルコール発酵開始後はアセトアルデヒドがアントシアニンと誘導体を形成するが、アルコール発酵開始前にこのような誘導体が生成しているか不明である。本年度は発酵開始前のブドウ果汁に多く含まれる酒石酸がフェントン反応によって生成するアルデヒドであるグリオキシル酸によって新たなアントシアニン誘導体化が形成されているのではと考え、その色調変化に寄与しているアントシアニン誘導体を明らかにした。 試料はMalvidin-3-O-glucoside(Mv3g)を含む酒石酸水溶液または、Mv3g・Epicatechin (EC)の酒石酸混合水溶液を調整し、そこにEDTA溶液あるいは硫酸鉄(II)を添加し、30℃の暗所で反応させた。色調変化は色差計で評価し、酒石酸分解物を介して生成したアントシアニン誘導体の構造解析はUPLC-DAD-MS/MSを用いて測定した。 二価鉄を添加した試料はキレート剤を添加した試料に比べてMv3gが大きく減少し、反応溶液の色調が赤から紫に変化した。また、ECを含む試料では赤から橙への変化になった。新たに生成した誘導体の構造解析を行った結果、3つの化合物を確認した。化合物1は、酒石酸分解物によって架橋構造を持ったMv3gの2量体で、Mv3gに比べ長波長側に吸収を持っていた。化合物2はMv3gとEC間で同様に架橋構造も持つ構造で、この誘導体の吸収もMv3gと比べ長波長側にシフトしていた。化合物3はMv3gとECの間で環状構造を形成していた。この誘導体は440nm周辺に大きな吸光を持っていた。これらの新規誘導体の吸収は反応溶液の色調変化に寄与しており、アルコール発酵前段階での色調変化への影響が示唆された。
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