研究課題/領域番号 |
16K00813
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
中本 裕之 神戸大学, システム情報学研究科, 准教授 (30470256)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | テクスチャー / 食感 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、食感センサと咀嚼運動機構に食感知覚処理方法を組み合わせた食感計測システムの実現及び食感知覚の定量化である。平成29年度では、人間の感じる食感感覚と平成28年度に設計・製作した磁気式食感センサで計測した応力と振動の関係を定量的に評価するための研究を推進した。これには2通りの取り組みを行った。 1つ目は、ある食感の代表的な食品の応力と振動の時系列データをテンプレートとして、別のサンプルから得られた応力と振動の時系列データとテンプレートとのマッチングにより類似度を求めそれを食感評価値とする方法である。この方法では振動の時系列データはそのままマッチングするのではなく、振動の累積和の時系列データを用いた。2種類の実験を行った。1つは、食感の異なる食品を用いた。食感評価値となる類似度の差やパターンから、食感の違いを明確に示せることを確認した。2つ目の実験では、類似の食感のもつ食品を用いた。先に述べた実験に比較して当然ながら差やパターンの違いは小さくなるが、類似度の差は官能評価値と同じ傾向をもつことを確認した。これらの結果から、食感の違いの大きいあるいは小さい食品間においても、同じ方法により食感を定量的に評価できることを実験的に確認した。 2つ目の取り組みとして、リカレントニューラルネットワークを用いて食感の定量評価を行った。リカレントニューラルネットワークは時系列データの入力を許容し、学習された内容にしたがって出力パターンを出力できる。実験では、まず官能評価により12種類の食品に対し3種類の食感の有無を評価させた。次にニューラルネットワークが8種類の食品の時系列データにもとづき3種類の食感の有無を学習した。最後に、学習に用いていない4種類の食品に対してニューラルネットワークにより食感有無を評価し、その結果が官能評価が同じ傾向をもつことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では3つのサブテーマを並行に推進し、最終年度においてそれらを集約し食感の定量評価の可能な食感計測システムを実現する計画とした。この計画において平成29年度では、サブテーマa)の「磁気式食感センサの高精度化及び高感度化」に関連して、パターンマッチングによる類似度を用いた食感の定量化に関する研究を推進した。平成27年度に製作したセンサ基板と増幅回路を用いた実験を行い、官能評価と実験の結果から食感の定量化が可能であることを示した。サブテーマb)の「多軸の咀嚼運動による食感評価の有効性の検証」については、咀嚼運動システムの開発が主であり、システムは平成28年度に完了している。平成29年度においては、円弧軌道での咀嚼運動制御を実装し、平成30年度においてそれを計測された応力に応じた咀嚼運動の生成へ応用していく。サブテーマc)の「食感の知覚処理過程のモデル化」については、知覚処理モデルとしてリカレントニューラルネットワークを用いた食感評価を行った。このモデル化では別のニューラルネットワークを用いる計画であったが、学習の速さや拡張の容易さからリカレントニューラルネットワークを用いた。実験では食品を破断した際の応力と振動の時系列データを用いることで、官能評価の結果と同じ傾向をおもつ食感評価が可能なことを確認した。これらの研究実績の内容から、計画で挙げた3つのサブテーマをそれぞれ推進していることから順調に研究が進捗していると判断し、区分として「(2)おおむね順調に進展している。」を選定した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では先の「現在までの進捗状況」で述べたように、計画で挙げた3つのサブテーマのそれぞれにおいて計画通りの進捗と結果が得られている。したがって最終年度となる平成30年度においては、3つのサブテーマを集約し本研究のまとめとなる成果となるよう、計画通りに推進をするとともに、必要に応じて新たな要素を追加することで研究を深化させたいと考えている。具体的には、サブテーマa)「磁気式食感センサの高精度化及び高感度化」においては、システムの性能を高めるために増幅率の変更の容易な回路の設計と試作評価を検討したい。サブテーマb)の「多軸の咀嚼運動による食感評価の有効性の検証」では、円弧軌道と矩形軌道とで得られる計測結果の違いの評価を進めたい。サブテーマc)の「食感の知覚処理過程のモデル化」では、ニューラルネットワークモデルによる食感評価の汎化性能の向上を検討する。さらに、食感センサで取得した時系列データから特徴量を決定し、ロジスティック回帰モデルにより食感評価を行いたい。このように残る1年の研究期間において、できるだけ多くの追加要素を実施し、食感の定量化の実現を目指し、研究成果の充実を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に磁気式食感センサの増幅基板を先行して製作したため、平成29年度に執行予定だった基板の製作費の予算を執行しなかった。この予算の一部は平成29年度に成果発表の費用として使用したが、残る予算は平成30年度の成果発表と論文投稿の費用として使用する計画である。
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