本研究課題は、未利用および低利用水産資源を発酵食品の原料とすることで食品としての有効利用を目指し、さらに作製した発酵食品から機能性物質を見い出すことを目的に研究を行った。 これまでの研究で、鹿児島湾に生息し小型であるために利用価値の低いヒメアマエビを材料とすることで、魚醤油(ヒメアマエビ醤油)を作製できることが分かっており、2018年度は、製造工程の違いと機能性に関して検討した。その結果、ヒメアマエビを蒸煮処理した方がしないものに比べ、抗酸化活性の高いヒメアマエビ醤油となることがわかったことから、作製規模を拡大するにあたり、蒸煮工程を取り入れることとした。さらに、蒸煮工程を経て作製した4Lのヒメアマエビ醤油から、DPPHラジカル捕捉活性を指標に化合物の精製を進めたところ、2.9mgの機能性物質の単離に成功した。 そこで2019年度は、単離した化合物の化学構造を明らかにすることを目的とした。単離した化合物を重メタノールに溶解し、各種NMRスペクトルを測定したところ、本化合物はN-アセチルオクトパミンであることが明らかになった。N-アセチルオクトパミンは、チロシンの脱カルボキシ化により生じたチラミンがβ-ヒドロキシ化してオクトパミンとなった後、アセチル化されることで生じているものと考えられた。また、オクトパミンは無脊椎動物に含まれることが知られており、ヒメアマエビに含まれるオクトパミンが魚醤油製造工程でアセチル化されたことも考えられた。 本研究課題は3年間の計画で始めたが、途中、研究代表者が所属を異動したことにより進捗状況に遅れが生じた。しかし、1年間研究期間を延長することで、未利用・低利資源の発酵食品としての有効活用法を確立し、さらには作製した発酵食品に含まれる機能性物質を明らかにすることができた。計画時の目的を達成することができ、今後はさらなる応用研究へと展開していきたい。
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