研究課題/領域番号 |
16K00824
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研究機関 | 女子栄養大学 |
研究代表者 |
小西 史子 女子栄養大学, 栄養学部, 教授 (50170288)
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研究分担者 |
香西 みどり お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (10262354)
古庄 律 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (50238680)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / ムクナ / アミロイドβ42 / 老化促進マウス / 学習記憶能力 / Y字迷路試験 / Step-Through試験 |
研究実績の概要 |
ムクナのアルツハイマー病予防効果を検証するために、(1)ムクナ及びその加工品のアミロイドβ42の凝集に及ぼす影響(2)ムクナを摂取した老化促進マウスの学習記憶能力に及ぼすムクナ中のL-DOPAの抗酸化作用の影響を調べた。 (1)ムクナおよび加工品のアミロイドβ42の凝集に及ぼす影響:0.4M酸緩衝液pH4.0で、煮熟ムクナ抽出物を調製した。そのアミロイドβ42(Aβ42)の凝集に及ぼす影響をチオフラビンTによるAβ42凝集体生成評価法を用いて調べた。その結果、ムクナ溶液は濃度依存的にAβ42の凝集を阻害した。加工品として調製したターメリック、ローズマリー添加ペーストは、ムクナ単独ペーストよりも強い凝集阻害活性を示した。 (2)老化促進マウスの学習記憶能力に及ぼすムクナ中のL-DOPAの抗酸化作用の影響:SAMP8を2群に分け、AIN76標準飼料を与える(PC)群、標準飼料にムクナ粉末を体重1Kg当たり120mg(L-DOPAとして6mg)添加して与えるムクナ群(M群)とした。試験試料投与開始週からY字迷路試験、およびStep-Through(実験を毎週14週間実施した。 1)Y字迷路試験:マウスが三本のアームを間違えずに順番に侵入した場合を成功数とカウントし、空間作業記憶を評価した。ムクナを摂取したM群は、PC群に比べ進入成功回数が高くなる傾向が強く見られた。 2)Step-Through試験:マウスが暗室へ移動すると0.2mAの電流が流れるためマウスは直ちに明室に移動する。再試験時に嫌悪刺激を記憶していることで生じる反応潜時の長さを判定した。実験開始から14週目迄、M群がPC群より反応潜時は長かった。1)2)からムクナのL-DOPAはSAMP8マウスの学習能力に影響を及ぼすと考えられた。 ムクナはAβ42の凝集阻害活性を示し、老化促進マウスの学習能力低下を抑制することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)ムクナ豆抽出物がアルツハイマー病の特徴および原因と考えられているアミロイドβ42の凝集を濃度依存的に阻害することを明らかにした。 2)ムクナ豆を利用した調理品の開発については、ターメリックあるいはローズマリーを添加したペーストを開発した。さらに、それらの加工品のアミロイドβ42の凝集阻害活性を調べたところ、ローズマリー、ターメリック添加ムクナ豆ペーストは、いずれもムクナ豆単独ペーストよりも効果的に凝集を阻害した。 3)アルツハイマー型認知症モデル動物である老化促進マウスSAMP8にムクナを摂取させたところ、ムクナ非摂取動物に比べ、自発的交替行動と受動的回避反応において高成績を収めることができた。このことから、ムクナ中の抗酸化成分として考えられるL-DOPAはドーパミン前駆物質としてだけでなく、脳内で抗酸化性物質として作用することが示唆された。 以上、平成28年度の実験計画通りに実験を行い、仮説が証明されるようなデータを得ることができたので、これまでの進捗状況は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ムクナのアルツハイマー病発症に対する予防的効果を検証するために以下のような実験を行う。 (1)ムクナおよびムクナ加工品のタウたんぱく質凝集に及ぼす影響:アルツハイマー病の病理学的特徴として、脳内におけるアミロイドβの凝集およびタウたんぱく質の凝集があげられる。昨年度はムクナがアミロイドβの凝集阻害に効果のあることを実証したので、本年はムクナ抽出物(0.4Mリン酸緩衝液pH4.0でホモジネートして抽出)のタウたんぱく質凝集に及ぼす影響を調べる。さらに、ムクナを用いた加工品を引き続き考案し、そのアミロイドβ42およびタウたんぱく質凝集阻害活性も調べる。 (2)ムクナ摂取による老化促進マウスへのアルツハイマー病発症予防効果:実験動物として、11週令雄性のSAMP8およびSAMR1を購入し、1週間の馴化飼育を行った後、SAMP8を3群に分け、AIN76標準飼料を与える(PC)群、標準飼料にムクナ粉末を体重1Kg当たり12mg(L-DOPAとして0.6mg)添加して与えるムクナ(MS)群、と体重1Kg当たり120mg(L-DOPAとして6mg最大許容量)添加して与えるムクナ(ML)群、またSAMR1マウスを対照として標準飼料を与える(NC)群とする。試験試料投与開始週からY字迷路(自発的交替行動)試験、およびStep-Through(受動的回避反応)実験を毎週実施して20週間の試験期間とする。また、飼育終了に解剖を行い、脳を摘出して脳内アミロイドβ量、タウたんぱく質凝集について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試薬「アミロイドβ42」を和光純薬から購入し、実験をすすめていたが、2月に発売中止になった。急いで代替品を探して注文したが、購入期限に間に合わなかったために、残金が発生してしまった(小西史子分)。また、同じく試薬を輸入・購入したが、その試薬配達が購入期限に間に合わなかったために、残金が発生した(古庄律分)。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度、アミロイドβ42などの試薬を購入する費用に充当する。
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