本研究は、食品のおいしさの感性表現(クリーミー・濃厚・コク等)を見える化することを目的としている。このような感性表現は、無意識で直感的なトップダウン処理のため具体的に説明しようとすると困難を伴う。感性表現を具体化するためには、食感発現と風味放出を咀嚼の時間軸に沿って意識化し、ボトムアップ解析する必要がある。そこで本研究では、官能評価・物性測定・構造観察・成分定量の手法を用いておいしさの感性表現を見える化する。 本年度では原料を単純化したホエイタンパク質-寒天-乳脂肪混合ゲルのモデルゲルを用いた。官能評価の結果、「クリーミー」には「やわらかさ」、「なめらかさ」、「口どけ」、「流れやすさ」が重要と考えられた。「やわらかさ」は破断強度試験における破断応力と負の相関を示した。「なめらかさ」は圧縮破壊時に破片が形成されないゲルで高く評価された。「口どけ」は水中での繰り返し圧縮試験における圧縮時の最大応力と負の相関を示した。「流れやすさ」は動的粘弾性試験のひずみスイープにおける複素粘度(η*)と負の相関傾向を示した。微細構造観察の結果、各ゲルにおいてホエイ・寒天・脂肪が共存して連続相、寒天の球状凝集体が分散相をとる相分離構造が観察された。さらに、圧縮破壊時に生じたメゾスケールの亀裂に違いがみられた。連続相から亀裂を生じたゲルでは連続相ネットワーク強度が低いため、破断応力・複素粘度が低下し、ずり方向の力に対して内部構造を保持できなかったと考えられる。一方、その他のゲルでは複数成分の界面から亀裂が生じた。そのうち、寒天濃度のより高いゲルでは脂肪球と連続相の界面から亀裂が生じるとともに、亀裂の周辺で寒天の球状凝集体がさらに凝集しクラスターを形成していた。 以上のように、ホエイタンパク質-寒天-乳脂肪混合ゲルにおいて「クリーミー」食感発現メカニズムを構造的要因から明らかにすることが出来た。
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