平成28年度から31年度までの4年間、カゼイン混合タンパク質ゲルの物性制御とその展開として伸展性フィルム創出のために基礎研究を行い、以下のような成果を出した。 即ち、熱安定性が高く、酸に対する感受性の高いタンパク質である乳カゼインを、熱凝固性の種々のタンパク質(乳清、卵白、大豆グロブリンなど)と混合し、グルセロール(可塑剤)存在下での加熱誘導ゲル形成性及びそのフィルム形成能について調べた。具体的には超音波分光分析、レオロジ測定、熱分析及び微細構造観察を主要ツールとして解析し、分子シャペロン活性を有するカゼインが、可塑剤の一部代替機能を発揮するとともに、混合系における逆可塑化現象に寄与し、伸展性と強度の両者を持ち合わせたフィルム、且つタンパク質フィルムの長所の一つとして知られている酸素バリヤー性などを備えた新規フィルムを創出できることを明らかにした。現在この内容は特許の審査請求を進めているところである。 更に昨年度より、加熱処理を伴わないケースでの、乳カゼインと上記の熱凝固性タンパク質との相互作用を、グルコノデルタラクトン存在下での緩やかな酸性化誘導条件下で研究している。その結果、等電点の類似したタンパク質間であってもその酸性化に要する時間が用いるタンパク質により顕著に異なることが明らかになった。これについては新規な解析法の一つである共焦点レーザー走査型顕微鏡顕微鏡をも併用し、いくつかの知見を得ることができた。
|