研究実績の概要 |
食用キノコにおいて,マツタケの独特の香りが日本人に大変好まれている.その香りの主成分は桂皮酸メチルであるが,この成分がなぜマツタケとその近縁種キノコのみで検出されるかは分かっていない. 本研究では,フェニルアラニンから桂皮酸メチルの生合成経路において,桂皮酸から桂皮酸メチルの生成に関与する桂皮酸カルボキシルメチルトランスフェラーゼ(CCMT)に焦点を当てて,遺伝子レベル・タンパク質レベルから明らかにすることを目的とした.また,マツタケ風味の新品種キノコの作出の先駆けとして,ヒラタケにCCMTを付加して,ヒラタケにおけるマツタケの特徴香の生合成を調べる. 平成29年度において,遺伝子の発現量の解析により,CCMT様遺伝子の候補の1つを選択した.平成30年度においては,「組換えCCMT様タンパク質の産出と性質化」を試みた.初めに,CCMT様候補遺伝子のcDNAとゲノムDNAをクローニングして,配列を決定した.cDNAとゲノムDNAの配列を比較したところ,この遺伝子は8個のイントロンを含み,487個のアミノ酸からなる分子量約54,000のタンパク質をコードしていた.また,このタンパク質にはクラスⅠ S-アデノシルメチオニン(SAM)-依存性メチルトランスフェラーゼファミリーの保存配列が存在していた.次に,CCMT様候補遺伝子のcDNAとpET28a発現ベクターからなる組換えプラスミドを大腸菌 BL21(DE3)株に導入し,形質転換体を得た.その後,IPTG誘導により,分子量約55,000の組換えタンパク質を得た.次に,大腸菌粗酵素液のCCMT活性測定を行った.しかし,明確な活性を検出することはできなかった.これより,このCCMT様候補遺伝子が桂皮酸メチルの生合成に関与するCCMT様遺伝子であることを明らかにすることはできなかった.
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