私たちが日常的に感じている味は、味覚受容体と味物質との結合がもたらすシグナルが味神経、大脳皮質、偏桃体などの脳神経系を介して知覚されるが、その過程で味情報は増幅・抑制等の修飾を受けていると考えられる。よって、味物質による味覚受容体の活性と官能評価を介した味の認識には乖離がある可能性が非常に高いが、そこに着目した研究は少ない。本研究では、この乖離を明らかにして、味覚受容体が受容した呈味シグナルがどのように脳まで伝達されるかを明らかにすることを目的とする。30年度は、条件反射による唾液分泌を引き起こす可能性の高い香りと、味との相互作用を生理応答を用いて評価するために、唾液分泌の測定を行った。その結果、香りを添加した味溶液による唾液分泌と静止唾液分泌の相関関係が、味と香りの組合せにより異なることを見出した。さらに、香りを添加した味溶液による唾液分泌と静止唾液分泌の相関関係と嗜好のばらつきの関係を解析した結果、相関関係が低い場合は嗜好にばらつきがある傾向があることが示され、生理応答を用いた嗜好性評価に利用できる可能性が示された。また、全ての基本味と辛味についても同様の解析を行い、酸味の相関関係が有意に低いことを見出し、酸味の生理応答が他の味と異なる可能性を示した。また、これまで得られた結果から、培養細胞に発現させた甘味受容体の感度が、動物実験、官能評価および唾液分泌をもたらす濃度と比較して概ね20~100倍良いことを明らかにした。味の強さについては、甘味受容体の結果と、官能評価や唾液分泌による結果に乖離がなく、甘味受容体を用いた甘味料の評価結果は、閾値を補正することで官能評価の代替を行える可能性が示された。
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