ヒトの研究で、醤油香やベーコン香が、塩味を想起しやすい香となっているとの報告がある。本プロジェクトでは、任意の香りの付いた塩味食品を口にする「味/香連合体験」により、香と味の関係性が学習されること、連合体験した香を利用して塩味増強を引き起こすことができることを動物実験で明らかにしてきた。塩味連合学習しやすい香に共通の特徴があるのか否かを調べるために、これらの香りの般化実験を行った。 マウスを5群に分け、醤油・味噌・ベーコン・バニラ香・バニリンのついた塩水を提示して8週間以上飼育した。3週間以上利尿剤入りの餌を与えることで塩味欲求性を亢進させた状態のマウスを用いて塩味評定を行った。種々の濃度の塩味溶液をマウスに提示し、10秒間に試料溶液を舐める(リックする)回数を測定し、試料溶液の嗜好度に換算することで、香付与による塩味増強効果の大きさを比較した。さらに、連合体験に使わなかった香を付与した食塩水を提示し、塩味増強に寄与する香の般化を検討した。その結果、味噌香気はバニラ香気で連合体験したマウスに対しても塩味増強作用を示すことが明らかとなった。醤油香気は、醤油香気そのもので連合体験したマウスには塩味増強作用を示すが、他の香気育ったマウスとっては好ましくない香のようであった。ベーコン香気で連合体験したマウスは、他の香に対して忌避する傾向にあった。このことから、醤油香とベーコン香は元来好ましい香ではないが、経験によって強く味と結び付く香ではないかと考察できる。日本人を対象とした研究では、醤油香に十分な塩味増強効果があることが示されている一方、フランス人を対象とした研究では、醤油香による塩味増強がベーコン香やチーズ香に比べて非常に小さいことが示されている。本プロジェクトで得られた考察は、既報のヒト対象研究でみられる日本人とフランス人の差異を説明できるものであった。
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