研究課題
脂肪過剰摂取は糖尿病発症の誘因となるが、その発症メカニズムは多くが不明である。我々はインスリン受容体変異マウス(mIR)に高脂肪食(HFD)を負荷すると顕性の糖尿病を発症することを見出し、脂肪組織での脂肪分解亢進と肝臓での糖新生亢進がこのモデルマウスでは高血糖の誘発原因であることを発見した。HFD負荷mIRマウス(mIR/HFDマウス)では、肝臓における胆汁酸代謝が大きく変化しており、特に胆汁酸合成の律速酵素であるCyp7a1の発現は著減していた。興味深いことに、mIR/HFDマウスの高血糖は野生型マウスから採集した皮下脂肪を皮下に移植することにより改善された。このことから、脂肪組織と肝臓が何らかのネットワークを介して情報交換していることが予想された。そこで、平成28年度には脂肪移植が引き起こす肝臓での代謝変化を解析した。まず、mIR/HFDマウスでは、HFDを負荷した野生型マウス(WT/HFDマウス)と比較し、Cyp7a1の発現は明らかに減少していたが、脂肪移植により有意に改善した。また、糖新生の律速酵素であるG6Paseの肝臓での発現は、mIR/HFDマウスでは再摂食時に奇異性増加を示したが、脂肪移植により再摂食時の増加は消失した。そこで、脂肪移植と肝臓での糖代謝の関連を明らかにするために、脂肪移植による胆汁酸組成の変化を解析した。その結果、脂肪移植により、総胆汁酸量は変化しなかったものの、胆汁酸組成を百分率で表すと特定の胆汁酸(胆汁酸X)の比率が上昇していることが明らかになった。そこで次に胆汁酸Xを混餌で投与したところ、mIR/HFDマウスの血糖値は有意に低下した。現在、胆汁酸X投与によるmIR/HFDマウスの肝臓における糖代謝の変化を解析中である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、脂肪移植により肝臓の糖代謝と胆汁酸代謝が変化していることを明らかにすることができた。さらに増加が見られた胆汁酸XをmIR/HFDマウスに投与すると高血糖が是正されることも見出し、胆汁酸代謝の変化と糖代謝の異常を結びつけることができた。
平成29年以降も、本申請で提案した計画通り、脂肪移植と肝臓での代謝変化を結ぶ機序を解析する予定である。特に、胆汁酸組成解析で増加が確認された胆汁酸Xは腸内細菌叢の働きにより産生される二次胆汁酸であることから、脂肪組織と肝臓に加え、腸管での変化についても解析を進める予定である。
当初、平成28年度に胆汁酸組成の解析を行う予定であったが、脂肪移植により特定の胆汁酸が増加することが明らかになったため、この胆汁酸の投与実験を先立って施行した。これらの結果を解析したのち胆汁酸組成解析を行った方が効率がより重要な情報得られると考えたため実験の順番を変更して行っている。平成29年度には行えるものと考えている。
胆汁酸組成の解析に使用する予定である。
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