研究課題/領域番号 |
16K00846
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
李 恩瑛 千葉大学, 大学院医学研究院, 助教 (60583424)
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研究分担者 |
三木 隆司 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (50302568)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 糖尿病 / 糖新生 / 脂肪移植 / 胆汁酸 |
研究実績の概要 |
糖尿病はインスリン分泌障害や作用障害の遺伝性素因に過食や運動不足などの環境因子が加わって発症することが知られている。ヒトでは脂肪の過剰摂取が糖尿病発症を誘発すると考えられているが、そのメカニズムは多くが不明である。我々は遺伝的にインスリン抵抗性を有するインスリン受容体変異マウス(mIRマウス)に高脂肪食を負荷すると、安定して顕著な高血糖が誘発されることを見いだした。糖尿病発症のメカニズムを解析している過程で、我々は高脂肪食を負荷したmIRマウス(mIR/HFDマウス)に、野生型マウスから単離した脂肪組織を移植すると、高血糖が有意に減弱することを見いだした。さらに、mIR/HFDマウスの血中の胆汁酸組成を解析したところ、特定の胆汁酸(胆汁酸X)が有意に増加していることが明らかになった。そこで、平成29年度には胆汁酸Xが糖代謝にどのような影響を与えるのかを解析した。まず、mIR/HFDマウスに胆汁酸Xを混餌で投与したところ、mIR/HFDマウスで見られる高血糖が一過性ではあるが有意に改善することが明らかになった。さらに、耐糖能を経口ブドウ糖負荷試験により解析したところ、胆汁酸X投与によりmIR/HFDマウスの耐糖能障害が改善する傾向が見られた。これと同時に軽度ではあるが有意な体重減少が見られ、野生型マウスでもmIRマウスでも高脂肪食負荷による肝臓のsteatosisが明らかに抑制されていた。以上の結果から、脂肪組織移植により増加した胆汁酸XがmIR/HFDマウスで抗糖尿病効果を発揮することが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
既に脂肪組織の移植がインスリン抵抗性を改善することは国内外の研究者から報告されている。しかしながら、その機序については、多くが依然不明のままである。我々は脂肪移植により、一見、何の関連もないように思われる胆汁酸代謝に変化が起こり、胆汁酸組成の変化が誘導されることを見いだした。平成29年度には増加する胆汁酸Xの抗糖尿病作用を証明することもできた。また、胆汁酸Xをヒトの肥満合併糖尿病患者に投与することにより血糖と体重が是正できる可能性もあり、肥満、糖尿病の新規治療薬としても有用である可能性が考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
我々は、平成29年度までに脂肪移植により血糖と肥満が改善し、移植後に血中の胆汁酸Xが増加することと、胆汁酸Xが抗糖尿病効果を示すことを明らかにした。そこで、平成30年度は現時点で解明できていない下記の点について解析を行う予定である。 まず、胆汁酸Xが示した抗肥満作用の機序を解明する。既にコール酸などの胆汁酸が抗肥満効果を有することが示されているが、胆汁酸の分子標的が複数同定されており、胆汁酸Xの作用様式は不明である。従って、胆汁酸XをmIR/HFDマウスに投与し、胆汁酸が関連すると考えられる種々のシグナルの変化を、このシグナル下流の変化を解析し、胆汁酸X作用の分子機序を絞りこむ実験を行う。 また脂肪移植によりどのような機序で血中の胆汁酸組成に変化が誘導されたのかを解明する。可能性として脂肪移植により腸内細菌叢が変化した可能性が考えられるため、脂肪移植群と対照群の腸内細菌叢の変化を経時的に解析する。 これらの解析により、脂肪組織と肝臓の間のシグナル伝達により、生体の糖代謝がどの様に制御されているかを解明することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
上記の通り本研究は順調に進んでおり、平成30年度には研究を完遂することを目指している。既に脂肪移植が胆汁酸代謝に変容を与えることが分かり、本研究の最終年度には腸内細菌叢の変化や、胆汁酸Xを投与した際の胆汁酸組成の変化を解析する必要がある。しかしながら前者には次世代シークエンサーによるmicrobiome解析、後者には胆汁酸プロフィールの質量分析による解析が必要である。いずれも1回実施するのに大きな費用が必要であるため、試料採取の前にできる限りの解析を行い、これらのデータを効率良く解析する予定である。このような理由から、平成29年度の実験をできる限り絞り、平成30年度に幾らかでも研究費を残すように努めた。
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