申請者は生活習慣病の基盤病態として、炎症の適切な収束が妨げられた状態と考えられる「慢性炎症」に着目した研究を進めている。炎症応答は本来、生体の防御反応であり、生体にとって異変がおこると自然免疫応答を活性化させ、サイトカイン、ケモカインといった微量で強力な生理活性物質を放出する。慢性炎症をコントロールするためには、その分子メカニズムの解明が非常に重要な課題である。近年、Toll-like receptor(TLR)やInflammasomeを介した免疫応答・炎症応答の活性化と脂質代謝・合成が密接に関連していることが報告されている。そこで、本研究においては炎症応答に伴う脂質の合成経路に着目した研究を進めた。これまでの結果から、Raw264.7細胞やC57BL/6マウスからbone-marrow derived macrophage(BMDM)を調整し、LPS等で細胞を処理するとカスパーゼのmRNA発現が時間依存的に急速に誘導されると同時に、脂質合成に関わる遺伝子発現も誘導されることがわかってきた。実際にカスパーゼが関与しているのかどうかを検討するため、カスパーゼ阻害剤や合成siRNAを用いてノックダウンすると脂質合成に関連した遺伝子発現が有意に抑制された。さらに、カスパーゼと脂質合成の転写に関わる因子sterol regulatory element-binding protein(SREBP)が刺激依存的に共局在することがわかった。また、免疫沈降法により会合性について検討したところ、カスパーゼはSREBPの活性化に関わる分子と会合することがわかってきた。現在、カスパーゼノックアウトマウス由来の細胞を用いて、本シグナル経路を次世代シーケンサーを用いて解析を進めている。今後、慢性炎症に関わる動物モデルを作製しカスパーゼの関与を明らかにしていきたと考えている。
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