研究課題/領域番号 |
16K00860
|
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
加治 秀介 兵庫県立大学, 看護学部, 教授 (90224401)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ニューロペプチドY / Y2受容体 / SNP / 肝細胞 / マクロファージ / HDLーコレステロール / 栄養素 / マイクロアレイ |
研究実績の概要 |
過食やストレスでニューロペプチドY(NPY)が交感神経末端より放出されることが知られるが、NPY受容体の一つ、Y2受容体(Y2R)の遺伝子上流SNPsと血中HDL-C値が健常者で関連すること、血中HDL-C値が低くなるSNPでは培養肝細胞に一過性遺伝子上流導入で転写活性がみられること、さらにY2R拮抗薬BIIE0246による遺伝子発現についてのマイクロアレイ解析でHDL-C値が低くなる機序の一端を報告してきた。 一方血中HDL-C値が高くなるSNPsではヒト培養マクロファージに一過性遺伝子上流導入で転写活性がみられることから、BIIE0246による遺伝子発現についてマイクロアレイ解析をおこなった。その結果レプチン受容体の発現増加、レプチンシグナル関連遺伝子群がパスウェイやNLMネットワーク解析で有意に含まれることが明らかとなった。マクロファージにおけるレプチン作用にはACAT1を介するコレステロール逆転送抑制作用が知られており、NPYはY2Rに作用してレプチンシグナルの抑制を介してコレステロール逆転送を促進する可能性が考えられた。 これらの結果に基づき、HDL-C上昇作用のある栄養素のY2R遺伝子発現への影響をリアルタイムPCRで検討している。Y2R遺伝子上流SNPをヘテロにもつ肝細胞HepG2において発現を抑制する栄養素を探索中であるが、フラボノイドのルチン、カロテン類のゼアキサンチン、ポリフェノールのクロロゲン酸はむしろY2R発現を有意に上昇させ、フラボノイドのイソフラボンは発現抑制傾向、キサントフィルのアスタキサンチンは有意に発現を抑制した。 一方マクロファージにおける栄養素によるY2R発現促進効果については、HDL機能の内マクロファージからのコレステロール逆転送が報告されている栄養素を中心に検討中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画では、肝細胞HepG2で転写活性のあるY2R遺伝子上流SNPのタイプではNPYが血中HDL-C値が低くなることより、HepG2でY2R発現を抑制する栄養素の探索、Y2R拮抗薬の探索を主に進めることとした。実績概要に示したようにいくつかのHDL-C値を上昇させる作用のある栄養素のHepG2細胞における影響を確認し、一部にY2R発現を抑制する傾向のある栄養素ないし有意に発現を抑制する栄養素を見出した。HepG2細胞はY2R遺伝子上流SNPsがヘテロであったため、当初Y2R遺伝子上流SNPsをホモにもつことが確認できたHuH-7細胞を使う予定であった。基礎検討を済ませているHepG2でもY2R遺伝子発現をリアルタイムPCRで検討できたので、HuH-7についてはやや増殖活性が不安定なこともあって、可能であればH29年度検討の予定である。 一方、THP-1細胞からホルボールエステルで分化させたマクロファージに転写活性のあるY2R遺伝子上流SNPsのタイプではNPYが血中HDL-C値がより高いことを報告していたがその機序は不明であった。今回のマイクロアレイの結果、当初予定していなかったマクロファージでのY2R発現を促進する栄養素も探索することになった。このためHepG2細胞での拮抗薬の探索はH29年度に実施予定である。 以上より当初計画に加えて検討内容が広がったため、一部に遅れが出ているが、おおむね順調に進んでいると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
1)肝細胞におけるY2R遺伝子発現抑制を指標とする栄養素の探索 すでに見出した栄養素のY2R遺伝子発現抑制効果の時間・用量依存性をHepG2およびHuH-7細胞で確認する。血中HDL-C値を上昇させることが知られる栄養素をさらに選び、試薬として入手し、HepG2細胞に添加して、Y2R遺伝子発現を抑制する栄養素を探す。 2)肝細胞におけるY2R拮抗薬の探索 これまで用いたY2R拮抗薬BIIE0246は活性は強いが特異性にやや問題があるので、他の拮抗薬JNJ31020028やSF-11などの候補薬剤を入手し、HepG2細胞への網羅的遺伝子発現への影響をマイクロアレイを用いて検討する。 3)マクロファージにおけるY2R遺伝子発現促進を指標とする栄養素の探索 マイクロアレイの結果からHDLの機能のうちマクロファージからのコレステロール逆転送機能に絞り、現在文献よりこの逆転送機能を高める栄養素を探索中である。これらの栄養素から、入手可能なものを購入し、培養マクロファージに添加してY2R遺伝子発現をリアルタイムPCRで半定量し、vehicleの対照と比較する。内部コントロールにはβアクチンを用いている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品購入費は当初予算より減額できた。この理由として、既存の肝由来細胞HepG2が利用可能であったこと、それ以外ではHuH-7が直接シーケンスの結果、使用可能であることが早期に判明したことで他の細胞を購入使用する必要がなくなったことがあげられる。また検討栄養素については想定した予算より安価に購入できたこと、文献的に候補栄養素が想定していたより絞られたことも一因である。
|
次年度使用額の使用計画 |
想定していなかったマクロファージにおいて、既存のTHP-1が使用可能で、新たにU937細胞を直接シーケンスしてTHP-1同様SNPsはヘテロであることが判明したためTHP-1細胞に限定して検討可能となった。当初マクロファージの検討を想定していなかったが、マイクロアレイ解析の結果、この細胞でも栄養素探索が必要となったため、このための予算が当初計画より必要となる。またBIIE0246以外のY2R拮抗薬によるHepG2またはHuH-7細胞における網羅的遺伝子発現への影響を見るためのマイクロアレイ解析が、一部今年度に予定していたが、次年度の計画に繰り越したため、生じた次年度使用額をこれらに当てることを予定している。
|