研究課題
窒素と炭素の安定同位体比 (δ15Nとδ13C) は,生態学や考古学などの分野で,また食物連鎖の解析などに汎用されている.また,近年は,拒食症や飢餓 (窒素バランスが負の状態) および妊娠時に頭髪中のδ15Nが増加し,δ13Cの減少が報告されるなど,ヒトを対象とした研究にも利用されている.日本は高齢化が進み,通常の食事で必要な栄養を摂取できない高齢者が増加し,経腸栄養剤や中心静脈栄養輸液製剤による栄養補給を必要とする高齢者が増えている.現在,患者の栄養状態を評価する指標として,BMI (Body Mass Index) と血清アルブミン値がよく利用されているが,BMIは浮腫や脱水の影響を受けやすく,血清アルブミン値はマラスムス型の低栄養状態の場合では比較的高く保たれていることから,これらの指標が患者の栄養状態とその変化を常に正確に反映しているとは限らない.そこで,BMIと血清アルブミン値を用いた栄養状態の評価の欠点を補い,さらに長期間の栄養状態を把握できる指標として,頭髪中のδ13C値とδ15N値の利用を考えた.本研究は,日本で使用されている経腸栄養剤および静脈栄養製剤のδ13Cおよびδ15N値を測定し、これらの測定値と栄養剤に含まれる成分との関係を考察した.1) また,経腸栄養剤および中心静脈栄養輸液製剤の長期投与を受けた患者頭髪中のδ13Cとδ15Nを測定し,これらの測定値と投与したエネルギー量や各栄養素量 (炭水化物,タンパク質および脂質),さらに,栄養指標であるBMI,血清アルブミン値,総コレステロール値 (total cholesterol: T-CHO) およびGNRI (Geriatric Nutritional Risk Index:高齢者栄養リスク指標) との関係を詳細に検討した.2 ) さらに,アミノ酸を窒素源とする静脈栄養製剤の投与による頭髪中のδ13C値とδ15N値の変化とその投与期間との関係を検討した.
3: やや遅れている
各医療機関や研究機関の倫理審査委員会の審査基準が厳格になったため、予定していた患者試料(頭髪)の収集が遅延しているため。
これまで、患者頭髪を加水分解し、得られた各アミノ酸の安定同位体を測定した。今後は各アミノ酸の定量し、得られた結果を総合的に評価する。
2年目であるため、最終年度に若干の繰越をした。来年度は交付決定額を全て支出する。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (3件)
Clin. Nutr.
巻: 36 ページ: 1661-1668
10.1016/j.clnu.2016.10.017
Rapid Commun. Mass Spectrom
巻: 31 ページ: 745-752
10.1002/rcm.7841