葉酸は核酸の合成や修復、アミノ酸代謝に関与しており、DNA合成や細胞の新生に欠かせないビタミンである。妊娠前からの葉酸補給が胎児の神経管閉鎖障害の発症リスクを低下させることが明らかとなり、穀類への葉酸強化政策は世界80か国以上で実施されている。葉酸強化によって神経管閉鎖障害だけでなく、脳卒中やある種のがん、認知症予防に対して効果をあげてきた。しかし、過剰摂取による影響が懸念されており、多くの研究で論じられきたが結論はでていない。 葉酸栄養状態に明確な影響を与える遺伝子多型としてメチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素の C677T 多型がある。我々はこの多型に基づいたテーラーメイド栄養指導により地域住民の葉酸栄養状態の改善を図ってきたが、多型間差を解消するにあたり葉酸400μg以上摂取を勧めている。しかし食事のみで摂取することは難しく、最近は葉酸強化食品の利用が増加してきた。2013~2018年度実施の「さかど葉酸プロジェクト」のセミナー参加者から得られたデータ(血液検査結果、食事調査結果、その他)を蓄積し、解析を進めた。強化食品による葉酸摂取量は195μgDFE(食事性葉酸当量)程度で、食事からの摂取量を合わせてホモシステインを基準範囲に保つために十分量であることが示された。血中葉酸値は、直前の食事の影響を受けやすい血清葉酸での評価だけでなく、中長期間の葉酸栄養状態を示す赤血球葉酸濃度測定を行った。葉酸未代謝物の検出と葉酸分子種の分別定量を検討したが、解析可能なデータを得るに至らなかったため、マイクロバイオアッセイ法による値のデータを解析に使用した。介入前後6ヵ月間では、赤血球葉酸濃度はいずれの多型においても有意差は認められなかった。強化食品の使用頻度は葉酸強化米が高く、食事がおろそかになる傾向はみられなかった。
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