研究課題/領域番号 |
16K00866
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研究機関 | 聖徳大学 |
研究代表者 |
神野 茂樹 聖徳大学, 人間栄養学部, 教授 (10251224)
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研究分担者 |
高橋 利枝 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助手 (80236299) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トランス脂肪酸 / アポトーシス / インスリン抵抗性 |
研究実績の概要 |
トランス脂肪酸過剰摂取により成人病のリスクが上昇すると考えられている。しかしながら生化学解析はあまり行われていない。トランス脂肪酸は工業的に生産、あるいは反芻動物の発酵胃において生産されることがよく知られているが、申請者らは工業的に硬化油を作る過程で生成される主たるトランス脂肪酸であるエライジン酸を用いてその細胞障害性を解析した。 平成28年度以降の研究により、エライジン酸はヒト単球系白血病細胞株U937においてカスパーゼ9を介しアポトーシスが誘導されることがわかった。これはTOLL様受容体(TLR-4)の活性化がミトコンドリアの活性化を引き起こしたと考えられ、事実TLR-4タンパクを阻害することによりこの効果は消失した。同時にエライジン酸はヒト乳がん由来細胞株YMB-E-1においてインスリン依存的なグルコース取り込みを抑制した。これはグルコーストランスポーター(GLUT-4)の細胞膜への輸送が阻害されるためで、この上流もTLR-4に支配されていた。このことはトランスバクセン酸でも同じ結果が確認された。 ところが平成29年度、YMB-E-1細胞におけるインスリン依存的なグルコース取り込みのシグナル伝達経路を検討した結果、驚くべきことにエライジン酸存在下ではインスリン受容体が活性化しないことが示された。このことからインスリン受容体が何らかの阻害因子により活性化できないのか、または受容体とインスリンが結合していないのかという2点に絞られた。検討の結果エライジン存在下ではインスリンと受容体が結合できないことがわかった。またバクセン酸でも同様でありインスリン抵抗性の理由の一つと考えられた。 立体構造から考えて、インスリン受容体とインスリンの結合を特異的に阻害することは考えにくく、今後脂肪酸や刺激因子の種類を変えてどのような機構で受容体への結合が阻害されるかを検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目標はトランス脂肪酸のうちエライジン酸を用いて細胞障害性の解析法を確立しトランスバクセン酸など他のトランス脂肪酸について調べることであった。アポトーシス及びインスリン抵抗性を細胞障害性の解析から、TOLL様受容体(TLR-4)を介するシグナル伝達経路をトランス脂肪酸が抑制していることを解析してきた。しかしこの結果に対し一部疑問が生じた。 エライジン酸、トランスバクセン酸は確かにインスリン抵抗性を誘導し、インスリン依存的なグルコース取り込みが抑えられる。しかしこの効果はインスリンによるシグナル伝達が途中で抑えられたのではなく、インスリンのシグナル伝達経路が活性化しなかったためであった。これはインスリン受容体自体が活性化していないことで明らかである。このことはエライジン酸、トランスバクセン酸存在下ではインスリンが受容体に結合しても受容体の活性化が抑制されたか、またはインスリンが受容体に結合しなかったかどちらかであると予想できる。結果はインスリンが受容体に結合していなかった。つまりエライジン酸、トランスバクセン酸は直説インスリンと受容体の結合を阻害したことになる。 そのためTLR-4を介した経路というのは軌道修正をする必要がある。しかしインスリンと受容体の結合を抑えているのは脂肪酸のどの部分かは非常に興味深い。トランス型不飽和脂肪酸だけでなく飽和脂肪酸、シス型不飽和脂肪酸、そして炭素長や二重結合の場所などを比較検討することは興味深い。またこのような結合阻害はインスリンと受容体だけではなく様々な因子にも広げられる。今後はこの両面から検討していく。 同時にアポトーシスに関しても本当にTLR-4なのかは検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
基本的な実験の進め方に変更はないが、インスリン抵抗性に関してエライジン酸、トランスバクセン酸のようなトランス脂肪酸が特別な存在ではない可能性が示された。そこでトランスバクセン酸を中心にはするがエライジン酸やステアリン酸、オレイン酸などともその阻害の強さを比較検討する。 またエライジン酸、トランスバクセン酸のインスリン抵抗性誘導はインスリンと受容体の直接相互作用によるため、シグナル伝達の抑制はTLR4を介して行われるわけではない。このことはインスリン様増殖因子(IGF)のようにインスリンに構造が類似した因子の受容体への結合も阻害されることが容易に想像される。脂肪酸が生体膜に影響することにより生体膜上の受容体に変化が生じ流ため、液性因子の受容体への結合が影響されることも考えられる。このことからインスリンだけではなく、IGFやEGFなどの液性因子とそれぞれの受容体の相互作用に関しても実験を進めていく予定である。 次にエライジン酸、トランスバクセン酸がインスリンと受容体の相互作用を阻害は、構造から考えて特異的であるとは考えにくい。同様の直鎖構造を持つステアリン酸も相互作用が抑制されていることが考えられる。炭素数や結合方式の異なる様々な構造の脂肪酸を用いて阻害効果の関係性を確かめる必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由は2点ある 1)エライジン酸による培養細胞でのインスリン抵抗性がもともと考えていたTLR4によるものではなく、インスリンと受容体の結合を阻害するためであることが分かったため、実験の進め方を検討し、方針転換を行った。この間もともとの実験の進行が遅れ、使用額が少なくなった。しかし方針は固まったため次年度は順調に計画を進めることができる。 2)共同研究者だった高橋利江が病気のため離脱した。もともと高橋利江は今年度で大学退職の予定だったため後半からは予定を早めて申請者が代わりを務めることにしこの問題は解決した。
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