エライジン酸はヒト乳がん由来細胞株YMB-E-1においてインスリン依存的なグルコース取り込みを抑制している。グルコーストランスポーター4(GLUT-4)の動きを蛍光抗体法で観察するとインスリンに応答した細胞内小胞から細胞膜への輸送が阻害されていた。インスリン抵抗性がどの段階で起こるか調べたところ、エライジン酸の添加した場合、正常なインスリンの伝達機構と比べ、インスリン受容体が細胞内部に移動せず、IRS-1タンパク質量の減少やIRS-1チロシンリン酸化の低下が確認された。これらの結果はエライジン酸がパターン認識受容体TLR-4を介して影響していると考えられた。 これらの結果より今年度はエライジン酸の阻害機構を解析した。エライジン酸による阻害機構としてTLR-4受容体を介する可能性のほか、エライジン酸が直接的に、インスリンとインスリン受容体との結合を阻害していることを考えた。インスリンをFITCにて蛍光ラベルし、エライジン添加後に蛍光インスリンを添加し細胞膜への結合を調べた。結果インスリンはエライジン酸共存下では濃度依存的に細胞膜への結合が抑制された。ラベルされていないインスリンによる競合実験から蛍光インスリンがインスリン受容体に特異的に結合していることは確かめた。 以上のことよりエライジン酸がインスリンのインスリン受容体への結合を直接阻害していることが示された。エライジン酸が細胞内シグナル伝達系の上流のTLR-4により作用していることは否定する結果となってしまったがこの現象は酪農製品に含まれるトランス脂肪酸であるバクセン酸でも観察された。のみならず炭素数18個の脂肪酸は飽和不飽和を問わずインスリンの結合を阻害する結果が得られた。炭素数の異なる脂肪酸についても確認中である。
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