研究課題/領域番号 |
16K00868
|
研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
保坂 利男 杏林大学, 医学部, 講師 (60403698)
|
研究分担者 |
石田 均 杏林大学, 医学部, 教授 (80212893)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 乳酸 / GOT / ビリルビン / 脂肪肝 |
研究実績の概要 |
前年度に続いて、当大学倫理委員会承認およびUMIN臨床試験登録後、糖尿病、肥満外来患者を対象として、乳酸と一般の生化学採血(ミネラル、骨代謝マーカーも含む)に加えて、血清インスリン、悪玉サイトカイン(MCP1,TNFα)、アディポネクチン、血清脂肪酸分画、体重、体組成、運動、活動量調査、食事量調査をおこない110人程度の登録が終了した。その中からエントリー基準に満たさない人を除外として、解析をおこなった。血糖コントロールの指標と乳酸は相関せず、内臓脂肪、脂質、GOT、インスリン抵抗性指標と単相関を認め、アディポネクチンと逆相関を認めていた。更なる解析としてステップワイズ解析をおこない乳酸値高値の説明変数として、血清GOT及び血清ビリルビンが有意となった。肝線維化の指標の一つであるFib4 indexとは相関を認めず、筋肉量とは負の相関を認めた。この結果から空腹時乳酸値は、血糖コントールでなく、線維化前の早期脂肪肝の指標としての新規アディポカインと考えられた。現在、肝障害から脂肪肝が推測できる患者について生活習慣の介入をおこなって乳酸値を含めたパラメータの推移を前向きに検討している。 インスリン抵抗性状態での乳酸シグナルの関与のin vivoでの解析では、3T3-L1脂肪細胞で、パルミチン刺激で細胞内酸化ストレスと細胞内炎症惹起によるMCP1が分泌メカニズムの解析から、パルミチン酸は、ERKやJNKシグナルを介してMCP1の発現を制御しており、その抑制には、運動のシグナルに関与していると推測されているAMPKの関与を見出し報告した(Morita N, Hosaka T et al, Journal of Diabetes Research ID9256482 2018)。現在、乳酸シグナルの関与について同時乳酸添加で解析をおこなっている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
臨床研究に関しては、当初の予定通り糖尿病患者での登録が終了。健常者のデータとして人間ドックなどでのデータ登録を考えてはいたが、解析より乳酸値と血糖コントロールとは相関は認めておらず、現在脂肪肝患者の前向きの解析を始めている。また、ROC曲線からGOT、ビリルビンを反映するきれいなカットオフ値は決めることができずN数を増やすべく、リクルートをおこなっている。培養細胞での実験に関しては、現在インスリン抵抗性状態として、脂肪毒性によるインスリン抵抗性のメカニズムの解析は終了して、乳酸の関与の実験を行っている。データから今後培養肝細胞株にての乳酸シグナルの研究も始めたい。
|
今後の研究の推進方策 |
臨床研究に関しては、脂肪肝患者の前向きの研究の登録、開始が終わっており、約20名の登録となった。数か月後には、乳酸を含めた半年のパラメータの変化の統計学的解析をおこなう。短期運動療法の効果と乳酸値の変化などに関しては一定の傾向は認めず、まずは、脂肪肝のサロゲートマーカーとしての乳酸カットオフ値を決めるため、更なる登録を増やす方向でリクルートをおこなっている。倫理委員会で変更をおこない脂肪肝の客観的画像検査と血清乳酸値の関係の検討も考慮する。 培養細胞の実験に関しては、現在の脂肪毒性に対するAMPKの関与を見出しており、それらに対して、乳酸の刺激時間、刺激濃度などを変えて、さらに乳酸レセプターのsiRNAによる阻害実験での詳細なデータの解析を継続、開始とする。乳酸の細胞内代謝後の代謝物と脂肪細胞褐色化への関与が報告されており、我々の臨床データに比べて、乳酸濃度は高値であるが、それらが正しいかどうかの検討実験もおこない、乳酸刺激濃度による生理、病態作用の違いが認めるかの検討は必要とおもわれる。一方で乳酸の脂肪細胞からの分泌に脂肪毒性のシグナルも関与していると考えておりインスリン依存性以外の分泌機構をJNK, ERKなどをターゲットに解析を考えている。臨床研究の結果より、まずは培養肝細胞株を使って、脂肪細胞と同様な乳酸シグナルが存在するかの検討からの開始を考えており、飽和脂肪酸刺激による肝細胞脂肪化後に同様の検討も行う必要がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定に比べ、前向き研究の登録が遅れており、今後6カ月すべての結果が出た時点で、保存している血清でアディポカインの測定のため、ELISAが必要となり、調度今年度初めに解析を開始となり、削減できた費用を使用する予定である。培養実験においても遺伝子解析キットの使用が予定より削減できた。
|