研究課題
虚血性心疾患では心筋内脂肪酸代謝が低下し、また脂肪酸代謝低下と心室壁運動低下は関連する。本研究の目的は、虚血性心疾患における虚血再灌流療法と心筋脂肪酸代謝との関連を、新たな非侵襲的心筋内中性脂肪(TG)量測定法である1H-magnetic resonance spectroscopy (MRS)法を用いて検討、さらには、食事、脂肪酸摂取による心筋内TG量への影響を基礎的・臨床的に検証し、脂肪酸代謝が低下した虚血心筋に対する食事プログラムを含む有効な介入法を確立、新たな、かつ効果的な治療法の開発に繋げる事である。初年度は冠動脈疾患にて当院で経皮的冠動脈形成術を施行した患者のデータベース作成、血液検体等の保存、心臓MRIによる解析を前向き研究として進めてきた。その中で、急性心筋梗塞患者における急性期の心筋梗塞サイズが長短期の両者の心筋リモデリングに影響していることを明らかにし論文作成中である。また左前下降枝完全閉塞症例での心筋内中性脂肪測定を前向きに施行中である。これらの症例では完全閉塞に対する血行再建術施行後8ヶ月で再測定を行い、虚血再灌流と心筋脂肪酸代謝との関連を検討する予定である。動物実験としては、急性心筋梗塞モデルマウスを作成、自発的運動が心筋リモデリングを抑制することを明らかにし学会報告を行っている(第81回日本循環器学会)。またMRS法による測定を用い、肥大型心筋症患者では同様に肥大心を呈する高血圧性心臓病患者に比べ、心筋内中性脂肪量が有意に低下していることを報告した(Heart Vessels. 32:166-174,2017)。この結果は、心筋内中性脂肪量が疾患による脂肪酸代謝への影響を反映していることを示唆するものであり、本研究の仮説を支持するものである。
2: おおむね順調に進展している
冠動脈疾患を含む心疾患における心筋内中性脂肪量測定は順調である。疾患に対する介入後のMRSによる心筋内中性脂肪測定がやや遅れているが、測定に関わる大学院生、スタッフが増加したことにより、今後進捗していくと考えている。動物実験に関しては、急性心筋梗塞モデルマウスの作成は確立している。現在心筋梗塞巣並びにその周囲組織における詳細な脂肪酸測定を行っているが、測定系の確立に時間を要しておりその点において計画より遅れが生じている。今後、測定系が確立された時点で、食餌による脂肪酸負荷を行っていく予定である。
臨床研究に関しては、予定どおり心疾患患者における心筋内中性脂肪測定を継続、解析をしていく。当初の研究目的では、虚血再灌流が心筋内中性脂肪量に与える影響を検討するとなっているが、それに加え心臓リハビリテーションがこれらの病態ににどのような影響を与えるかも考察する。動物実験に関しても、急性心筋梗塞モデルマウスの心筋内中性脂肪量、リモデリング、心筋内脂肪酸代謝に対する食餌運動療法の影響を検討していく。
当該年度に関しては、当初科学研究費から捻出する予定であった物品、消耗品に関して既存の物品の流用が可能であったこと、学会参加が国内学会のみであったこと等から、その額に相当する繰越金が発生した。
物品費、人件費に関しては、研究協力を行う大学院生、スタッフの増員が決定したため、統計解析用PC、統計解析ソフトの追加購入を行い、データベース作成補助者に対する人件費に使用する予定である。旅費に関しては初年度においては学会参加は国内学会一回のみで、他の研究費使用でまかなうことが可能であった。本年度は海外学会参加予定であり、その渡航費用に当てる予定である。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (6件)
Heart Vessels
巻: 32 ページ: 166-174
10.1007/s00380-016-0844-8
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巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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