骨形成に関わる骨芽細胞と脂肪細胞の前駆細胞はともに間葉系幹細胞に由来するが、骨芽細胞への分化にはRunx2が、脂肪細胞への分化にはPPARγが関与することが知られている。鉄欠乏ラットは脂質代謝異常を引き起こすことが報告されており、骨芽細胞分化に関わる転写因子であるRunx2の発現が減少することから、鉄欠乏時の脂質代謝変動も骨代謝に影響を及ぼすことが考えられる。本研究では、鉄欠乏時の骨量減少に及ぼす要因について検討を行っているが、3年目の研究実施計画として、鉄欠乏時の脂質代謝変動と骨形成低下との関係について検討を行った。 被験動物として幼若Wistar系雄ラットを用い、飼料はAIN-93G飼料組成に基づき正常食と鉄欠乏食を作成した。また、脂質代謝研究を行う時には、一般的に解剖前にラットを絶食にさせることから、今回は絶食の有無による影響も検討した。鉄欠乏食投与により貧血症状を示したが、絶食の有無による影響は観察されなかった。血清中脂質成分については、鉄欠乏食投与より高値を示した。また、絶食により、血清中脂質濃度は低下した。肝臓中脂質代謝関連遺伝子は鉄欠乏食投与による変動と絶食による変化がみられた。鉄欠乏食投与により、大腿骨の骨塩量・骨密度は低下したが、絶食の有無による影響はみられなかった。鉄欠乏により、いくつかの骨形成関連遺伝子の発現は低下したが、絶食による影響がみられたものもあった。大腿骨中脂質代謝関連遺伝子については明らかな影響は観察されなかった。 鉄欠乏食摂取時の骨量減少は、主に骨形成関連遺伝子の低下による影響が強いことが示唆された。また、絶食の有無により、肝臓中脂質代謝関連遺伝子だけでなく、骨中の骨・脂質代謝関連遺伝子の変動もみられたことから、遺伝子発現を検討する際には絶食をすることによる影響も考慮する必要があることが示された。
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