研究課題
【背景・目的】ビタミンB12(以下B12)は、胃酸によって食品から遊離し、胃の壁細胞から分泌された内因子と結合した複合体が、回腸末端から吸収される。すなわちB12の吸収において、胃が重要な役割を果たしており、胃切除後にはB12吸収障害のため、巨赤芽性貧血が起こる。しかし肝臓に大量のB12が貯蔵されているため、実際に貧血が起こるのは、手術の数年後とされている。しかしわが国では、胃がんのほとんどは萎縮性胃炎をベースとして発症するため、胃がんにて手術を受ける以前から、B12吸収障害が起こり、肝臓での貯蔵が少なく、より早期から貧血が発症すると仮説を立てて、調査を行った。【方法】胃切除予定患者及び術後患者を対象に、血中B12・葉酸・ホモシステイン(Hcy)濃度を測定した。【結果】B12濃度は、胃切除後患者が切除前患者より低く、両者とも健常者に比べ低値であった。B12欠乏者(220pmol/L未満)は術前患者で33%、術後患者で64.4%であり、術後患者の欠乏者のうち44%が術後経過2年以内であった。胃切除後患者では、B12濃度とHcy濃度に有意な負の相関関係がみられた。貧血を有する者ではB12・フェリチン濃度が低く、鉄欠乏性貧血とB12欠乏性貧血の合併が示唆された。【考察】胃がん患者において術前からおよび術後早期からのB12吸収障害が示唆された。また、鉄欠乏性貧血とB12欠乏性貧血の合併が示唆され、機序として吸収障害が考えられたが、日常臨床ではB12を測定しないため見落とされやすいと考えられた。以上、ビタミンB12吸収障害は、従来考えられているより、はるかに早期から起こり、臨床栄養学的に重要な課題と考えられた。
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