研究課題/領域番号 |
16K00882
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
野口 範子 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (40198578)
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研究分担者 |
斎藤 芳郎 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (70357060)
浦野 泰臣 同志社大学, 生命医科学部, 助教 (00546674)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | オキシステロール / ビタミンE / 酸化ストレス / 脂肪滴 / CaMKII / phospho-CaMKII / 神経細胞死 / 膜の流動性 |
研究実績の概要 |
コレステロールの酸化物である24S-ヒドロキシコレステロール(24S-OHC)を神経芽腫細胞(SH-SY5Y細胞)に作用させると、ネクロトーシス様の細胞死が誘導され、レチノイン酸(RA)で分化させたSH-SY5Y細胞ではアポトーシスが誘導される。どちらの細胞死もビタミンEの同族体のなかで側鎖に二重結合のないtocopherol (Toc)はα-体によってもγ-体によっても抑制されるが、二重結合をがあるtocotrienol (Toc3)によって抑制されないことが平成28年度明らかにされ、Tocの細胞死抑制はラジカル捕捉能によるものではないことが示された。 24S-OHC誘導性細胞死は24S-OHCのエステル体の形成による脂肪滴様構造形成が重要であることも判明していた。これらを受け今年度は以下について明らかにした。 1)24S-OHC処理後、細胞の脂質染色に加え、細胞内24S-OHCと24S-OHCエステル体をGC-MSで定量し、これらに対するTocの影響と解析した結果、Tocは影響しないことが明らかになった。このことからTocの細胞死抑制は細胞の24S-OHC取り込み抑制ではないことが明らかになった。2)24S-OHC処理後の細胞について電子顕微鏡標本を作成し、TocとToc3の作用について解析した結果、24S-OHC 処理による小胞体の構造変化をTocは抑制するが、Toc3は抑制しないことがわかった。3)24S-OHCはRIPK1のリン酸化を誘導することが示されていたが、これらはTocもToc3も抑制しないことが明らかになった。4)24S-OHCはCaMKIIのリン酸化を誘導することが新たにわかった。これに対して、Tocは抑制するが、Toc3は抑制しないことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に予定計画していた項目4つのうち、3つを予定どおり実行して結果を得た。 1つの項目については化合物が入手できなかったため実行できなかった。その一方で、計画をしていなかった、ビタミンEの新しい細胞死抑制機構について知見を得た。 1)電子顕微鏡標本の観察を行い、細胞の微細構造へのビタミンEの影響を評価した結果、24S-OHC 処理による小胞体の構造変化をTocは抑制するが、Toc3は抑制しないことを明らかにした。2)24S-OHC-脂肪酸エステル産生へのビタミンEの影響を調べるために、HPLCおよびガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)を用いて細胞内の24S-OHCとそのエステル体を定量する方法を確立し、Tocの細胞死抑制は細胞の24S-OHC取り込み抑制ではないことを明らかにした。3)24S-OHC誘導性細胞死を抑制するTocと抑制しないToc3の化学構造の違いは、側鎖の二重結合の数の違いで、Tocは0個、Toc3は3個の二重結合をもつ。この違いが細胞の膜の流動性に異なる影響を与え、その結果細胞死抑制効果の違いに関係するという仮説をたてた。これを証明するために、二重結合が、1個のmonoenol体、2個のdienol体を用いて、それぞれの細胞死への抑制効果を調べる。<化合物が入手できないため実行できなかった>4)ビタミンE同族体の混合処理による細胞死への効果を検討し、最適濃度を求めることを目的で実験を行ったところ、Toc単独が最も抑制効果が大きいことがわかったが、混合比を変えて行うことが望ましいと判断している。5)新しい知見として、24S-OHCはCaMKIIのリン酸化を誘導することがわかり、これをTocは抑制するが、Toc3は抑制しないことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
1)24S-OHC誘導性神経細胞死はα-体、γ-体ともにToc濃度依存的に抑制する。前年度Toc3との混合実験を行ったが、今年度はTocのα-体とγ-体の様々な混合比で処理した場合の細胞死抑制効果を評価する。 2)ビタミンE同族体の細胞内分布を調べる。SH-SY5Y細胞に各ビタミンE同族体を処理後、遠心分画法を用いて、細胞小器官分画やラフト分画をおこない、それぞれの分画に含まれるビタミンE同族体の濃度をHPLC-ECDを用いて測定する。この分析を各ビタミンE同族体単独と混合ビタミンE同族体についておこなう。 3)24S-OHC以外のオキシステロール(25-OHC,27-OHCなど)による細胞死に対するビタミンE同族体の効果を評価する。 4)SH-SY5Y細胞以外の細胞を用いてオキシステロールによる細胞死に対するビタミンE同族体の抑制作用を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
<理由>24S-OHC誘導性細胞死を抑制するTocと抑制しないToc3の化学構造の違いは、側鎖の二重結合の数の違いで、Tocは0個、Toc3は3個の二重結合をもつ。この違いが細胞の膜の流動性に異なる影響を与え、その結果細胞死抑制効果の違いに関係するという仮説をたてた。これを証明するために、二重結合が、1個のmonoenol体、2個のdienol体を用いて、それぞれの細胞死への抑制効果を調べる予定であったが、二重結合が、1個のmonoenol体、2個のdienol体の化合物が共同研究先の実験が進まず合成費用が次年度に持ち越された。
<計画>平成30年度はビタミンEの構造を変える実験を進めるとともに、24S-OHC以外のオキシステロールによる細胞死について検討するため、別途試薬の購入にあてる。また、SH-SY5Y細胞以外の細胞を用いてビタミンE同族体の抑制作用を検討する実験に用いる。
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