脂質は細胞における重要なエネルギー物質であると同時に細胞膜成分の構成要素でもある。脂肪酸結合タンパク(FABP)分子ファミリーは、水に不溶な脂肪酸と結合することで可溶化し、細胞内での脂肪酸局在を決定すると考えられているキャリア分子であり、また脂肪酸情報伝達系に関与し、標的遺伝子の転写を制御するする重要な分子でもある。一般的に、遺伝子の転写制御は情報伝達系のみならず、HMGNタンパク分子ファミリーをはじめ多くの分子による染色体の立体構造制御によっても調節されていることが知られている。 これまでに行ったFABP5-ノックアウトマウスにおけるHmgn1遺伝子発現の再解析結果と、ルシフェラーゼレポーター実験によるHmgn1遺伝子の発現制御領域の検索結果から、Hmgn1遺伝子はFABP5を介した脂肪酸情報伝達系により調節されている可能性が示唆されており、Hmgn1遺伝子上流に少なくとも3箇所のPPAR結合配列(PPRE)とレチノイン酸受容体結合配列(RARE)を見出した。これら4箇所の脂肪酸をリガンドとするタンパク分子結合配列に変異を導入したdeletion cloneを作製し、同様にルシフェラーゼレポーター実験を行ったところ、Hmgn1遺伝子の転写開始部位に最も近かったPPREではレポーター活性の変化は見られなかったが、より上流に存在する2箇所のPPREとRAREにそれぞれ変異導入したクローンにおいてレポーター活性の顕著な増加が見られた。この結果から、Hmgn1遺伝子の転写はFABP5が関与する情報伝達系により負に制御されている可能性が示唆された。
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