研究課題/領域番号 |
16K00902
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研究機関 | 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 |
研究代表者 |
石見 佳子 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 国立健康・栄養研究所, シニアアドバイザー (50154159)
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研究分担者 |
石見 幸男 茨城大学, 理学部, 教授 (80159772)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 植物性エストロゲン / 大豆イソフラボン / オートファジー / 脂肪細胞 / 乳がん細胞 / 細胞増殖 / 細胞分化 / 細胞周期 |
研究実績の概要 |
研究目的:近年、エストロゲン誘導体やポリフェノールが種々の細胞のオートファジーに影響することで、代謝の調節やがんの増殖に関与する可能性が報告されている。本研究では、植物性エストロゲンによる細胞増殖と分化のメカニズムを明らかにする目的で、オートファジーの役割を中心に解析する。 研究計画:脂肪細胞の培養系に植物性エストロゲンを添加し、増殖と分化に対する影響を評価するとともに、オートファジーに特異的な染色で関連を検討する。植物性エストロゲンが、乳がん細胞のサイクリンD1、Myc及びMCM2-7タンパク質に対する影響をウエスタン解析により調べる。 研究結果:マウス脂肪細胞株MC3T3-L1細胞を用い、脂肪細胞の増殖と分化に伴い発現するオートファジーについて、オートリソソームを蛍光染色することで評価した。MC3T3-L1細胞を分化誘導した結果、MC3T3-L1細胞の培養1日目にオートファジーに関連するオートリソソームが誘導され、2日目にピークに達し、3日目には低下した。分化誘導によるオートリソソームの発現は、1-3日目全てにおいて、対照に比べて有意に高値を示した。 増殖を刺激する低分子物資を含む通常血清下で培養したMCF-7細胞を、リソソーム阻害剤のバフィロマイシン存在下に10時間、あるいはシャペロン介在オートファジー阻害剤の3-MA存在下に18時間培養した。両者で、DNA複製細胞の割合は有意に低下し、クロマチン結合性MCM4タンパク質の割合も低下した。よって、本培養条件下で、オートファジーはクロマチン結合性MCM2-7レベルを高めることでDNA複製に対し正に働くと考えられる。この時に低酸素誘導転写因子HIF-1AはMCM4と同様にクロマチンから解離する変化を示した。MCM2-7とHIF-1Aの直接の相互作用を調べたところ、HIF-1AとMCM2,3,4との結合性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
有効性評価:脂肪細胞の増殖と分化の初期にオートファジー関連するオートリソソームが上昇することが明らかになった。昨年度、大豆イソフラボンの一種であるゲニステインが、脂肪細胞の分化の初期のオートファジー関連遺伝子の発現を抑制したが、今年度はオートリソソームの発現に対するイソフラボンの影響について、最終的な結論を得るには至らなかった。29年度の研究計画を60%達成するにとどまった。 安全性評価:バフィロマイシン添加によりMCF-7細胞のDNA合成細胞率が低下し、同様の影響が3-MA添加によっても観察されたことから、細胞周期のG1期の進行にオートファジーが正の役割を果たすことが示唆された。この時のオートファジー分解標的候補であるHIF-1Aは阻害剤添加で量が増加するという単純な変化を示さなかった。一方で、HIF-1AとMCM2-7との直接的相互作用が明らかになった。今後も継続して、オートファジーがHIF-1A分解を促進することでMCM2-7機能を刺激し、G1期進行を推進するという仮設を検討する必要がある。29年度の目標を80%程度達成したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
有効性評価:30年度は、脂肪細胞の分化誘導に伴うオートファジーに対する植物性エストロゲンの作用を評価するとともに、骨芽細胞MC3T3-E1の培養系(飢餓培地または通常培地)の細胞増殖への影響をMTT Assayで評価する。また、分化の指標であるアルカリフォスファターゼ活性、オステオカルシン、オステオポンチン、osterix、Runx2、各遺伝子発現への影響を調べるとともに、オートファジー関連因子の遺伝子発現への影響を評価する。関与が認められた場合は、阻害剤及び活性化剤を添加してこれらの指標への影響を評価する。 安全性評価:通常血清存在下ではなく、イソフラボン添加刺激MCF-7細胞に対しバフィロマイシンや3-MAなどのオートファジー阻害剤を添加し、DNA合成細胞率の変化、MCM2-7とHIF-1Aの動態を調べる。一方で、培地から血清を除去し、オートファジーを促進した細胞で、同様の解析を行う。さらにこの飢餓条件で、オートファジー阻害剤を添加し、その効果を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度の当初計画は、骨芽細胞の増殖と分化におけるオートファジーの役割についても合わせて検討する予定であったが、脂肪細胞に関する検討が長引いたため骨芽細胞を用いた検討が実施できなかった。そのため、関連予算の全額を使用するに至らなかった。平成30年度は骨芽細胞におけるオートファジーの役割の検討を実施することから、今年度使用に至らなかった額をそれに充てる計画である。
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