研究課題/領域番号 |
16K00908
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
桧垣 正吾 東京大学, アイソトープ総合センター, 助教 (50444097)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 放射性セシウム / コメ / 移行率 |
研究実績の概要 |
前年度から継続して福島県内の水田において5月から8月まで毎月、土壌・用水の試料採取を行った。また、9月に稲の試料を採取した。経年的な変動を含めて以下の事項が明らかになった。 1. 研究対象とした水田において用水として用いられる水中の溶存態放射性セシウム濃度の測定結果から、平成29年は、平成28年よりも5~10倍高い濃度の溶存態放射性セシウムが観測された。これは、森林等から用水に新たな放射性セシウムの流入があることを裏付ける結果である。Cs-137/Cs比は、平成29年は、5月に最も高く6月7月にかけて減少し、8月が最も低かった。平成28年と異なる傾向があったことから、以下の放射性セシウムの流入のメカニズムが示唆される。付近の森林に沈着した放射性セシウムが、樹皮や葉の生え替わりにより落下し、リター層となって堆積している。そのリター層から放射性セシウムは一定の割合でため池に溶出するが、面積の広いため池に降った降水によって希釈される。そのため、単純な季節変動ではなく、降水量との関連が推測される。 2. 水田土壌を粒径ごとに分画し、各試料の放射性セシウム捕捉ポテンシャル測定を行った。その結果、粒径がやや大きい250~500μmの試料は季節変動が小さいものの、粒径の小さい試料は季節変動が大きく、最大と最小値では10倍程度の差がある試料もあった。有機物の存在量を反映している可能性があるが、明確な傾向も原因も明らかではないため、引き続き検討を行う。 3. 収穫したコメ(モミ全体)のCs-137濃度を、5月から8月までの水田土壌試料の平均Cs-137濃度で割ることで、土からコメへの放射性セシウム移行率を求めた。平成28年は0.25~0.38%、平成29年は0.08~0.09%であり移行率は4分の1程度に減少していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度研究の推進方策について挙げた3点について、マシンタイムの制約のため項目中の一部に未達成の部分があるものの、それ以外は全て実施することができた。また、平成28年度からの経時変化を観測することにより、放射性セシウム濃度の大幅な上昇という当初想定していなかった現象を観測することができた。さらに、放射性セシウム濃度の単純な測定に留まらず、粒径ごとの土壌試料の放射性セシウム捕捉ポテンシャルの評価等、研究対象とした水田の土壌からイネへのセシウムの移行について解析に必要な基礎的データという有意義な成果があったと考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度明らかになった知見を元に、以下の項目について研究を行う。 1. 水中の溶存態Cs-137/Cs比の季節変動についてさらに継続的な観測を行い、森林等から用水に新たな放射性セシウムの流入量の変化を調査し、その原因を探る。 2. 土壌試料の放射性セシウム捕捉ポテンシャルの評価について、有機物を除去した評価を試みるなど、粒径が小さい試料で季節変動が大きい原因を探る。 3. 栽培環境を取り巻く放射性セシウム濃度の状況が急に減少していないにも関わらず、コメへの移行率が大幅に減少した要因について検討する。これを解明することが、本研究の成果に直結する。
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次年度使用額が生じた理由 |
試料採取および成果発表にかかる旅費を、別の経費で支出あるいは旅費のかからない学会で行うなど当初の想定よりも低く抑えることができた。また、ICPMSによる試料の測定も想定よりも短時間で行うことができたため、アルゴン高圧ガスにかかる経費を低減することができた。
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