本研究は,食塩負荷高血圧時に動脈の弾性線維ネットワークがどのようになるかを調査することが目的であるが,そのために,どの動脈を利用して調査するかをまず検討した.それは,これまで,下腹壁動脈の枝を観察対象として血管壁の弾性線維ネットワークを観察してきたが,心臓の冠状動脈などが実際の高血圧症で影響を受けて症状をあらわすなど臨床的に重要である.しかしながら,冠状動脈は,一般の動脈と異なり収縮期よりも拡張期に血流が多く流れるなど循環動態が異なっていて,弾性線維ネットワークの構造が一般の血管の所見がそのまま当てはまるのかどうか不明である.そこで,心臓の冠状動脈でどのような弾性線維ネットワークが見られるかをまず確認した.ラットの心臓の冠状動脈において,血管鋳型樹脂注入後蟻酸消化法により弾性線維ネットワークを残し,走査型電子顕微鏡で観察した.冠状動脈の枝と下腹壁動脈の枝の弾性線維ネットワークは,基本的に似ており,幹の部分では板状に小孔が散在するいわゆる弾性板の構造を示していた.末梢に向かうにつれて小孔が拡大し,直径100μm前後で網目状となった.さらに細動脈レベルでは弾性線維は疎になり,編み目が粗くなっていき,ついに毛細血管へと移行していた.弾性線維分布密度と血管径の関係を調査したところ,冠状動脈では加齢に伴い100~200μmの動脈で弾性線維密度が低いことが明らかとなった。高血圧症モデルラットでは,細動脈において弾性線維ネットワークの一部が微小に断裂していることを確認した.密度と血管系の関係をSHRラット(15週令)において対照群と比較した.直径100~300μmの細動脈で,弾性線維密度が著明に増加していた.また,腎動脈結紮高血圧ラットにおいても同様に,直径100~300μmの細動脈で明らかな弾性線維密度の増加が認められた.
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