研究課題
生活習慣関連疾患のプライマリーケアにおいて、食生活と睡眠の習慣改善は、運動・メンタルヘルスと並んで極めて重要である。しかし、何らかの体調悪化を自覚して医療機関外来を受診する場合と異なり、一次予防を習慣づけることは難しい。特に災害後の復興期にある地域においては、ライフスタイルが変化せざるをえず、食習慣にしても複雑な一次予防は、それを実行することが困難である。そこで、誰もが継続しやすい一次予防の一つとして、食事時間に着目し、分子機序と疫学調査の両面からどのような介入が最も効果的かの検討を開始した。体内代謝・内分泌マーカーなどの分析に必要な情報収集のため学会などに参加するとともに、必要な機器を一部購入した。必要な基礎研究の倫理委員会は昨年度承認されているので、データの分析に入っている。一方、介入が必要な生活習慣病の状況を把握するうえで、災害被災地域における、肥満・メタボリック症候群・睡眠状況とメンタルヘルスなどの生活習慣病関連の調査を、本研究だけの成果ではないが並行して進めている。全体の概要としては、災害に伴う避難生活が及ぼす生活習慣の変化が、一般的には徐々に進行することが多いとみなされている生活習慣病を、1~3年という短い期間で急激に進行させていることが分かりつつある。また、それらにおいては、食事の回数や睡眠が大きく関与することを示唆する結果がでて論文化された。また避難生活という社会・心理学的な要因も重要であるという結果がえられている。本研究は、被災地域における生活習慣病の予防において、食事誘導性概日ペースメーカー(Food-entrainable circadian pacemaker)の基礎研究の進歩を基盤に、災害復興地域においても実現可能な食習慣一次予防の戦略的探索を目的として研究を進めている。
3: やや遅れている
生活習慣病と、インスリン抵抗性、脂肪肝、メタボリック症候群の間には関連が見られることは以前よりよく知られている。東日本大震災後の被災地における健康調査に基づき、生活習慣病関連の発症に影響する可能性のある要因の分析がすすめられているが、本研究に関連するところでは、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)によると思われる肝機能異常の改善に、運動習慣、睡眠、間食、食事のスピードなどの改善よりも、朝食を欠食しないということがもっとも大きく寄与していた。このことは一次予防的な介入では食事時間が重要であることを示唆するものと考えられた。ただし就眠直前の食事時間はあまり関与がなかった(Takahashi A, et. al. Changes in Hepatobiliary Enzyme Abnormality after the Great East Japan Earthquake: The Fukushima Health Management Survey. 2017 Sci Rep 7: 776.)またその他の分析もすすめている。分子機序についての基盤研究の方は、研究備品の購入などを行い、解析を現在行っている。
生活習慣病の発症や改善に関する効果的な一次予防については、食事時間とその他の食生活、運動、睡眠習慣などに着目した健康調査に基づく、分析をすすめる。分子機構の解明については、標準体重範囲内である被検者において、インスリン、レプチンなどの抵抗性を指標として、食事時間・その他の食生活、運動、睡眠などの一次予防因子がどのようにはたらくかを検討する。最終的には、疫学的な分析とメカニズムいずれもが妥当な一次予防を考えたい。もしそれらの間に説明がつけにくい部分がある場合は、さらに検討を継続する。
引っ越しに伴う実験室のセットアップが追加で必要であったため、また基盤研究は解析中であるため、残額が生じた。本年度の使用計画としては、基盤研究、健康調査いずれも分析をすすめ、発表旅費や論文化に向けて必要な追加分析、英文校正などの費用に支出予定。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
Scientific Reports
巻: 7 ページ: 776
10.1038/s41598-017-00776-7
Diabetes & Metabolism
巻: 17 ページ: 30517
10.1016/j.diabet.2017.09.005
BMJ Open
巻: 7 ページ: e014077~e014077
10.1136/bmjopen-2016-014077
Clinical and Experimental Nephrology
巻: 21 ページ: 995~1002
10.1007/s10157-017-1395-8