研究課題/領域番号 |
16K00926
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研究機関 | 藤田保健衛生大学 |
研究代表者 |
千原 猛 藤田保健衛生大学, 藤田記念七栗研究所, 准教授 (00217241)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | がん悪液質 / 経口栄養食品素材 |
研究実績の概要 |
がんは、日本では1981年より死因の第1位であり、生涯のうちに約2人に1人が罹患すると推計されており、国民の生命と健康にとって重要な問題である。このような背景の中で最も対策が遅れているのが、終末期がん患者に多く見られる「悪液質(cachexia)」に対するものである。 悪液質は、基礎疾患に関連して脂肪量の減少を伴う、あるいは伴わない筋肉の損失を特徴とする複合的な代謝異常症候群である。がん死亡症例の50%以上が罹患し、そのうちの約30%の死因が悪液質であると報告されている。終末期がん患者の多くに見られる悪液質では、栄養摂取不足により脂肪組織が優先的に減少する飢餓状態とは異なる体重減少がみられ、それには生命の維持に不可欠な骨格筋量が減少する代謝異常を伴っており治療抵抗性を示す。この複合的代謝異常症候群に一旦罹患すると栄養治療の効果は期待できないとされている。一方、連携研究者らは終末期がん患者様用の「症状・機能改善補助食品」を開発し、その有用性を報告している。申請者らは家族性大腸腺腫症モデルのmultiple intestinal neoplasia (Min)マウスを繁殖維持しており、このMinマウスは悪液質モデルマウスにもなり得ることが報告されている。 そこで申請者は雌雄のMinマウスを用いて、連携研究者らが開発した「症状・機能改善補助食品」に含有されている1成分を、水に溶解可能な最高濃度で週5日間9週間経口投与を行った。9週間後に心臓採血による安楽死後に主要臓器および大腿四頭筋、腓腹筋、ヒラメ筋を摘出して重量を測定した。その結果、特に雌性において体重減少を抑制するとともに、大腿四頭筋、腓腹筋の筋肉量の減少を抑制する傾向にあった。現在、炎症性サイトカイン測定とともに脂質代謝および糖質代謝異常への影響を検討しており、まず今回検討を行った成分の作用機序を明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究進捗がかなり遅れている。この理由としては悪液質モデルマウスのMinマウスの繁殖が順調ではなく、「症状・機能改善補助食品」の成分について複数成分の検討を行うことができなかった。また、本研究においては、現在データ整理中であるが、飼料摂取量に対する検討も重要で毎日の経口投与とともに、その測定にも時間がかかりすぎたのかもしれない。しかしながら、終末期がん患者における「食べられない」という患者様、ご家族の苦悩を少しでもなくすために、時間を必用とするがこの検討は必要かもしれないと考えている。連携研究者らが開発した終末期がん患者様用の「症状・機能改善補助食品」の有用性が報告されているので、含有成分のそれぞれの作用を基礎研究より明らかにし、その情報を臨床へと発信していきたい。 私事になるが、4月より大学の配置転換により新たな研究室および動物施設で研究を始めることになった。研究環境の整備を早急に行い本研究課題に取り組みたい。また、新たな動物施設での悪液質モデルマウスのMinマウスの繁殖に及ぼす影響を懸念している。
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今後の研究の推進方策 |
今後として、まず現在実施中の昨年度の検体の分析を完了させる。さらに今回、悪液質症状に対する検討をしようとしている「症状・機能改善補助食品」の含有成分で、飼料と混合できるものは混合飼料を作製し実験に供するようにしていく。また、投与期間であるが、当初は14週齢からの予定であったが、検討試料の効果を明らかにするために10週齢から9週間投与するようにする。 「症状・機能改善補助食品」の含有成分の検討は引き続き慎重に進めたい。投与濃度は臨床で使用された濃度を基本に設定するが、その濃度で効果がない場合は高濃度でも行う必要がある。それぞれの単品での検討が終了した後には、2種類、3種類を混合させて相加あるいは相乗効果がみられるのかを検討する。 次に悪液質症状時における小腸の状態を考慮すると、せっかく摂取した有効な経口栄養食品素材が吸収されないのではないかと考えられる。そこで、腸管の機能保持に有用な経口栄養食品との同時投与による修飾作用を検討したい。 ここまでのMinマウスを用いての検討で有用であった経口栄養食品素材を用いて、Minマウス以外の悪液質モデルとしてがん細胞移植マウスで検討を行う。数多くのモデルで検討を行うとともに、筋肉量減少の抑制があるかないかの確認、炎症性サイトカイン、糖質代謝、脂質代謝、摂食促進および摂食抑制ホルモンに及ぼす影響を測定し、より悪液質症状に有用な経口食品素材の確立を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に使用する悪液質モデルマウスであるmultiple intestinal neoplasia(Min)マウスは、自分自身で交配・繁殖をし、DNAでのタイピング後に実験に使用します。しかしながら、本年は繁殖率が非常に悪く、実験予定の匹数のMinマウスを準備することができず、予定通りに研究を進めることができませんでした。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度に予定していたが実行できなかった経口栄養食品素材の購入とともに、経口栄養食品素材で溶液による経口投与しかできない素材を除き、実験効率を上げるために固型飼料に混合させた試験飼料を作製する予定である。また、それ以外の助成金は昨年より引き続く実験の解析に使用するELISA測定キット、糖質および脂質代謝異常の修飾作用を確認する中性脂肪などの測定キット、mRNA発現解析のためのPCR用試薬、その他、動物飼育関連するもの、プラスチック消耗品などに使用予定である。
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