がんは日本において1981年より死因の第1位であり、2018年の死亡予測数も2017年に比べ約1100人が増加すると予測されている。生涯のうちに約2人に1人が罹患すると推測されており、国民の健康にとって重要な問題である。このような背景のなか、最も対策が遅れているのが、終末期がん患者に多く見られる「悪液質(cachexia)」である。悪液質は基礎疾患に関連し脂肪量の減少を伴う、あるいは伴わない筋肉の損失を特徴とする複合的な代謝異常症候群であるが、その進行を阻止する有効な治療法は未だない。このような現状の中、連携研究者の東口らは「症状・機能性改善補助食品」を開発し、終末期がん患者でその有用性を報告した。そこで申請者はその補助食品の悪液質症状改善作用をモデルマウスにて検討を開始した。そのモデルマウスとして、申請者が繁殖維持しているMin (multiple intestinal neoplasia)マウスを使用した。しかしながら、この検討を進めていく上で、Minマウスが悪液質症状を示すには長時間を要するため、研究効率を高めていく上で新たなモデルが必要となった。 そこで、申請者は既に報告されているマウス大腸癌細胞移植モデルを作製し、そのモデルが実際に悪液質モデルとなり得るかを確認した。その結果、癌細胞移植後11日目からは対照群(非移植群)に対して有意な体重減少が認められた。移植後21日目においては大腿四頭筋、腓腹筋も有意な低下を示した。また、主要臓器においても有意な差が見られるものがあった。特に肝臓においては進行がん患者と同様の変化を示している可能性がある知見を得た。これらの結果に基づき、現在このモデルマウスにて「症状・機能性改善補助食品」の悪液質症状に対する修飾作用を検討している。
|