研究課題/領域番号 |
16K00944
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研究機関 | 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 |
研究代表者 |
宮地 元彦 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所, 国立健康・栄養研究所 健康増進研究部, 部長 (60229870)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 糞便 / 常在細菌 / 栄養 |
研究実績の概要 |
糞便は、日々の生活において観察可能なものである。古くから一般的に糞便は日常的な健康状態を反映するバロメーターであると言われているものの、これまで排便状況や糞便の状態と生活習慣や疾患との関わりについて科学的に証明した研究は少なく、また糞便を客観的に評価する方法などは確立されていない。そこで、糞便の状態を客観的かつ簡便に把握するツールを研究・開発することは非常に重要である。 平成28年度は、先行研究を基に開発した「排便状況および糞便の状態に関する質問票(糞便状態評価ツール)」の妥当性を検討することを目的とした。38名の健康な成人を対象とし、便の量、便の色、形、においなどの主観的評価を実際の便(妥当基準)を秤量計、水分計、色彩色差計、臭気測定器を用いた測定し、比較した。排便者の回答した便モデルの本数(直径2cm×長さ10cm)と秤量法による糞便の実測重量は、有意な正の相関(r=0.778, p<0.001)が認められ、本モデルによる便量の推定がある程度可能であることが示唆された。また排便者によって分類されたブリストル便形状スケール(Bristol Stool Form Scale)と、実際の糞便の水分含有量の比較を行ったところ、有意な正の相関(r= 0.691, p<0.001)が認められた。ブリストルスケールに基づいた糞便の形状は、水分量と高い相関が認められ、先行研究(Blake et al, 2016) の結果とほぼ一致した。またクリープメーターを用いて、便の硬さや付着性(粘稠度)を測定する方法を確立した。より詳細な便の特徴をとらえることが可能となる。さらに糞便の色および臭気について、主観的評価との相関は比較的良好な一致率が得られた。以上より、「糞便状態評価ツール」の妥当性は比較的良好であり、本ツールを用いることで糞便状態をある程度推定できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
排便者の栄養状態ならびに腸内細菌叢の特徴を反映する糞便の量・硬さ(水分量)・色といった便の特徴を、妥当性および再現性高くかつ簡便に評価することができる評価ツールを開発し、広く活用していくことを想定している。経過はおおむね順調に進展している。本検討結果をふまえて、改良版を作成し、排便量や形状、色、においが食事内容や生活習慣とどのような関連があるのかを視野に入れ、解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
便の硬さ、色、臭いなどの複合的な因子について主観的な評価と客観的な評価との関連を検証することは、今後の研究の発展に寄与すると考えられ、その重要性が示唆される。 本ツールを使用することにより、排便者が自ら、客観的かつ簡便に、繰り返し自身の排便状況を把握することができる。便の状態は我々の食事・栄養摂取状況を反映し、また一部の疾患の罹患や発症とも関連することから、本ツールの利用により、健康状態の把握、疾患の早期発見などの効果が期待される。 今後、この「糞便状態評価ツール」を用い、日本人の幅広い年齢における糞便の状態を調査し、糞便と様々な生活習慣や健康状態・疾患との関わりを多面的に解析する予定である。これにより生活習慣や健康状態を反映した“腸内細菌叢”の見える化に発展が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度中に計画していた腸内細菌叢の解析が、実施できず平成29年度に持ち越しとなったため。また、これまでに得られたデータでの論文執筆、投稿・掲載、また学会発表にかかる経費の支出を平成29年度に持ち越したため。
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次年度使用額の使用計画 |
すでに平成28年度に実施できなかった腸内細菌叢の解析を速やかに完了するとともに、平成29年度中の論文執筆ならびに学会発表を実施し、繰り越した経費を執行する予定である。
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