研究課題/領域番号 |
16K00951
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
大向 隆三 埼玉大学, 教育学部, 教授 (40359089)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 光電効果 / 仕事関数 / 中空陰極ランプ / 物理実験教材 |
研究実績の概要 |
2017年度に本研究で提案した仕事関数測定法を用いて、新たにカリウム(K)の仕事関数を決定することができたが、長波長(主に650nmよりも長い波長域)での信号強度が安定せず、仕事関数の値の精度に影響を及ぼしていた。そこで2018年度は上記波長域の高パワー光を照射することでその影響をなくし、Kの仕事関数の高精度化に向けた研究を行った。 従来光源に用いてきたハロゲンランプと異なり、本実験では単一周波数の近赤外レーザー光源を導入し、その出力光(20mW)を中空ランプの陰極へ照射した。ハロゲンランプを用いて発生させていた単色光のパワー(数十マイクロワット)と比べて100倍程度も照射光パワーを増大させた。ロックイン検出法と呼ばれる高感度な電気信号測定法を使って、光電効果が生じたときに得られるランプ電極間のインピーダンス変化を測定することを試みた。電極間の印加電圧を50~500Vまで変え、ロックイン検出時に設定する感度および時定数を適切に調整しながら、光を照射しない状態で検出されるノイズ信号の強度とインピーダンス変化に伴う信号強度を詳細に比較した。 その結果、照射光波長が近赤外の領域においてはどのような物理的条件でも、インピーダンス変化に伴い生じる信号強度がノイズ信号強度を超えることは見出されず、光電効果が生じていないと物理的に断定することができた。従って、今後はこの波長域における光電効果信号をゼロと見做してよく、それよりも短い波長域だけでの測定で十分であることが判明した。このことは実験データと理論式とのフィッティングから仕事関数値を決定する本研究の実験手法において、得られる仕事関数値の精度を向上できる見込みを示す成果であり、極めて有意義である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では今までになかった新しい原理に基づく仕事関数測定法を用いて、汎用的かつ教育的な光電効果実験教材を開発することが目的である。汎用性に関して、本研究でプロトタイプとしてセシウム(Cs)を陰極とする中空陰極ランプを使いCsの仕事関数を測定することに成功した。当初は2018年度にそれを他の原子種からなるランプに広げて同様の実験を試み、様々な原子の仕事関数を測定できるかどうかチェックする予定であった。しかし、その候補としたナトリウム(Na)、ルビジウム(Rb)、ユウロピウム(Eu)を陰極とした3種の中空陰極ランプの購入手配をしたところ、製造ラインの都合で納期が想定よりも半年以上長くかかってしまい、2018年度末近くになってやっとこれらを入手できた。結果的にこれらのランプを用いて仕事関数の測定及び物理的考察を加える時間を確保することができなかった。汎用性については実験を通じた物理的な検証を実施できなかったので、「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今までの研究で残された課題となった汎用性のチェックについて、2019年度は研究を実施する。中空陰極ランプの準備は完了しているので、信号検出系の準備ができ次第、実験に着手する。まずは実験例のあるCs、Kの実験条件で試し、得られる実験結果を見ながら最適な実験条件を探索する。2018年度の成果である、近赤外域での光電効果信号の特性も考慮に入れ、実験から導かれる仕事関数の値が高精度化するかどうかもあわせて検証したい。 これらを終えることができたら、一般的な物理実験教材としての改良も加え、実用的な教材の完成を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年度に3種類の中空陰極ランプの納品が遅れたため、当初計画した中の一部の実験を行うことができなかった、今回次年度使用額が発生したのは、主としてこの実験の遂行に充てるはずであった経費である。3種類の中空陰極ランプは既に納品が完了してるので、実施予定であった実験を速やかに行い、その際に購入せねばならない実験機器(光学部品、光学マウント、電子回路部品など)にこの経費を使用する。
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