研究課題/領域番号 |
16K00955
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
浦田 慎 金沢大学, 環日本海域環境研究センター, 連携研究員 (20379283)
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研究分担者 |
山口 正晃 金沢大学, 自然システム学系, 教授 (60182458)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 飼育条件 / 摂餌量 / 性成熟 / 教材化 |
研究実績の概要 |
本年度は6月末に熊本県天草に出向いて、地元漁師よりノコギリウニ個体17個体を買い付けて、空路で能登まで輸送した。これらを含む34個体を、金沢大学環日本海域環境研究センター臨海実験施設にて継続的に飼育した。 飼育に関する基礎的な情報が乏しかったため、摂餌と性成熟について、観察、計測を実施した。複数の餌を与えた結果から、本種はカイメン類、コケムシ類、ヨツアナカシパン、ムラサキイガイ、弱った甲殻類などを食べる一方で、シロボヤ等の単体ボヤ、ムラサキウニ、ニホンクモヒトデ、フジツボは積極的に摂食しないことが示された。また、一個体あたりの摂餌量は一月あたりムラサキイガイで2~3個であることが示された。この結果に従い、保温飼育時には冷凍ムール貝を週一回一個ずつ与えるのを標準とした。 平均して月に一回程度、アセチルコリン注射により、成熟度を確認した。現在のところ、例えば個体11は、7月、9月、10月、12月に放精し、個体Gは7月、9月、10月、2月に放精するなど、半年の期間で繰り返し成熟する傾向が確認された。一方で半年間に一回しか放卵、放精が確認できなかった個体も複数あり、また12月には33個体中わずかにオスが一個体放精したのみであるなど、結果にばらつきが見られた。 研究の経過を、「ノコギリウ二 Prionocidaris baculosa の飼育と教材化の試み」として、日本動物学会中部支部大会(静岡)において報告した。また、ウニを使った授業を計5回にわたって実践し、うち2回については、小学校低学年を対象にノコギリウニを観察材料として初めて導入した。ウニの発生観察授業の教育効果に関して、論文として発表した(浦田 慎・松本京子・清元正人・松原道男・鈴木信雄「能登町の小学校授業におけるウニの発生実験の活用」日本海域研究48, p1-8)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ノコギリウニの安定的な飼育について予備情報がほとんどなかったため、困難が予想されたが、ほぼ一年間の飼育期間で死亡したのがわずかに一個体であったため。継続的な観察と計測が実施できた点、また小学校での教材としての導入が早々に試行できた点は進展と言える。また、平均月一回、各個体の性成熟の確認が実施できたことにより、本種の性成熟について大まかな傾向が明らかになった点も進展と言える。また本種を含めたウニ類を、小中学校の授業で教材として導入する試みを5回実施でき、今後のさらなる活用への手がかりとなった点、教育効果について論文で報告した点も進展と言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、飼育のリスク低減のため、臨海実験施設での流海水による飼育を原則としたことにより、上記の成果となったと考えられる。今後はこの結果を踏まえて、教材としての普及も見据え、閉鎖循環水槽も含めて、飼育条件について可能性を探る必要があると考えられる。 本年度の一個体の死亡要因は「共食い」であり、生存個体にもダメージを受けたものが少なからず見られる。共食いの防止は、非常に大きな課題であるが、現在のところ有効な対処法が見つかっていない。飼育密度、障害物の設置、投餌量の検討を重ねる必要があると考えられる。 投餌量が同じであるにも関わらず、性成熟の個体差が大きい傾向があり、またいつまでたっても人為的誘発による放卵や放精が見られない個体がいる。これが自発的な放卵や放精の影響なのか、あるいは内在的な要因なのかは不明であるため、原因を探る必要があると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、飼育のリスク低減を優先し、臨海実験施設での流海水による飼育を原則としたことにより、高額な閉鎖循環系飼育水槽の設置を見送ったため、支出が減少した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は本年度の結果を踏まえて、教材としての普及も見据え、半閉鎖循環系の飼育装置を構築する。また、個体の死亡要因として新たに顕在化した課題である「共食い」を防止するために、個体ごとに飼育可能な飼育装置を検討して導入する。
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