理科を学ぶ目的は、将来、科学技術の専門家になるためだけでなく、科学的な見方・考え方を習得し、将来、様々な分野で未知の問題に立ち向かう時に、色々な事を相互に関連させて考え、問題解決をはかる思考を身につけることにある。初等中等教育理科において、児童・生徒は、物理・化学・生物・地学領域を学習するが、各領域の関連性はほとんど意識されておらず、その総合的理解が得られているとは言い難い。将来、様々な分野の問題を考えるためには,まず理科各領域の関連性を意識させ、総合的に考えさせ、理解させる教材の開発が必要である。本研究では、児童生徒が、海産生物の飼育活動を通して自ら調べ、考え、工夫する過程を総合学習的に体験することが、理科各領域の関連性、総合的理解を得るのに適した教材であるとの仮説を検証するため、事例研究を行うとともに,アンケートと心理テスト(FUMIEテスト)を行うことを当初の目的とした。 平成29年度に中学校動物の分類単元で,無脊椎動物カニの動きに興味をもった生徒に,小4年での動物の体のつくりと運動単元「ヒトや脊椎動物の筋肉が骨を動かす仕組み」と,小6年「てこ」の規則性単元から考えさせる教材を提示し,この教材の有効性について検討した。過去に学習した動物の体の動きと「てこ」の規則性との関連性に気づき,動きを理解する思考過程で,生物領域と物理領域の知識を組み合わせて筋肉の動きを理解できたことに感動した生徒が多数いることがアンケートにより明らかになった。平成30年度にさらに統計的解析を進めたところ,生物領域の問題を考えるのに物理領域の学習は重要だと答える生徒の割合が,この教材体験後20%増加し,物理が嫌いという生徒は12%減少した。以上の結果は,本教材のように,生物と物理の関連性を意識させることで,理科の中でも苦手とされている物理の学習の重要性理解が高まったと考えることができる。
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