研究課題/領域番号 |
16K00960
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
梶原 裕二 京都教育大学, 教育学部, 教授 (10281114)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 分裂細胞 / 代替動物実験 / カエル / ブロモデオキシウリジン / 肢芽 / 小腸上皮細胞 / 精原細胞 |
研究実績の概要 |
生物・生命系の実験では従来、マウスが一般的に用いられてきた。しかし、「動物愛護管理法の改正」から動物施設等が整備された生命系の大学などを別にして、哺乳類のマウスを用いた実験は簡単に実施できない。しかし、生物教育において、「生きている」生体内の現象を探るには実物を用いた実験は必要不可欠であり、高等学校や大学初期課程で実施できる「マウスの代替動物実験」の開発を目的とする。 本研究室で開発した「簡易凍結徒手切片法」を用い、これまで難しかった動物標本を簡単に作成し、従来マウスが用いられてきたブロモデオキシウリジン(BrdU)を用いた分裂細胞の標識実験について、アフリカツメガエルの幼生・子ガエルを代替動物として検討した。H28年度・H29年度の結果から、(1)簡易凍結徒手切片法でも、マウスの小腸上皮細胞や精巣の精原細胞をBrdUで標識できること、(2)アフリカツメガエル幼生を用いた実験から、変態中の後肢内の間充織細胞に多数の陽性細胞が存在し、核の染色がマウスと同様であり、この領域は分裂活性が高いことから、確かにS期のDNA複製にBrdUを取り込ませ、組織標本内で検出できることが示された。(3)アフリカツメガエル子ガエルの小腸上皮には分裂細胞が散在し、マウスの分布と大きく異なっていた。このことは、マウスの小腸上皮細胞の分裂幹細胞が小腸底内のクリプトに局在するのに対して、カエルでは小腸が柔毛を形成せず、小腸襞内に散在することが原因と考えられる。(4)アフリカツメガエル子ガエルの精巣内に分裂細胞が細胞塊状に存在し、精巣においてもBrdU標識が可能であること、分裂細胞の存在がマウスと異なることが示された。 (5)他の代替動物として安価に入手できるシマミミズや再生ミミズを用いて、BrdUの標識実験を行なった。麻酔、ミミズへの投与はできたが、組織標本中に陽性細胞を見つけることはできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞分裂は生物の最も重要な現象である。また、ヒトを含む多細胞動物は単細胞の受精卵から細胞分裂を繰り返し成体となる。成体においても、分裂が盛んな組織には幹細胞が存在し、幹細胞の概念は再生医科学にもつながる。しかし、高等学校の生物では、細胞分裂は単にタマネギの根端細胞やムラサキツユクサの減数分裂の観察が一般的である。また、細胞周期のS期にヌクレオチドからDNAが複製される現象は図による説明が一般的で、動物を用いた実際の実験はほとんどない。 この視点から、哺乳類のマウスを用いたブロモデオキシウリジン(BrdU)を用いた分裂細胞の検出は最適な実験の一つであるが、哺乳類のマウスは動物愛護管理法の遵守から、他の代替動物の検討が必要である。 そこで、実験動物として一般的な両生類のアフリカツメガエル幼生・子ガエルを利用して、BrdUの標識、検出実験を行なった。その結果、変態中の幼生・後肢内の間充織細胞がほとんど陽性細胞であり、顕著な細胞分裂により後肢が成長する現象と一致した。また、マウスでは小腸上皮のクリプト底部に存在するのに対し、子ガエルの小腸上皮内の分裂細胞が散在すること、精巣内の精原細胞内の陽性細胞の分布も両種で異なっていた。これらの結果から、哺乳類マウスの代替動物として両生類のカエルが使用できることが示された。また、本実験は蛍光ヌクレオチドを使用せず、核内のBrdUを酵素抗体法により検出しているので、通常の生物顕微鏡で観察できるため、高校でも実施可能である。 さらに、安価で入手しやすい他の代替動物として、釣具屋で販売されているシマミミズの標識・検出を検討した。分裂細胞の頻度をあげるために体を切断した再生ミミズも利用した。その結果、麻酔によるBrdUの腹腔内投与、組織標本の作成はできたが、BrdU陽性細胞の検出には至らなかった。BrdU実験系の当否、分裂細胞の存在等検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
マウスで一般的なブロモデオキシウリジン(BrdU)による分裂細胞の標識は、これまで使用されてきた、放射性3H-チミジン、蛍光標識チミジンと異なり、蛍光顕微鏡がない高等学校でも通常の生物顕微鏡があれば実施できる。加えて、哺乳類マウスに替わる代替動物として、アフリカツメガエルの幼生や子ガエルを詳細に検討した。幼生後肢の間充織細胞に多数の陽性細胞があり、核の染色色調がマウスと同様であったことから、アフリカツメガエルの幼生・子ガエルがBrdUによる分裂細胞の標識・検出に確かに利用でき、マウスの代替動物になることが示された。分裂細胞の存在場所も、後肢の発達という生物現象を反映したものとなり、生物の発生・変態の学習時の実験となる。また、小腸上皮細胞と精巣の精原細胞では、マウスとカエルで分裂細胞の分布様式が異なることから、それぞれの組織の構造を考える実験となる。 他の取り扱いやすい動物としてミミズの利用を試みたが、うまく分裂細胞の検出・標識はできなかった。分裂細胞を検出するために、ミミズの再生現象、またX線の照射を同時に検討したが効果はなかった。 H30年度は、両生類の他、脊椎動物としてより取り扱いやすい魚類(キンギョ)について、分裂細胞の標識・検出実験を詳細に検討する。カエルとの腸上皮細胞内の分裂細胞の分布様態の相違、また、卵巣・精巣内の分裂細胞の分布様態を検討する。加えて、福島県の原発事故をうけての放射線科学リテラシー教育の一環として、分裂細胞と放射線の生物影響を実際に確認する実験系とする。 本研究室で考案した「簡易凍結徒手切片法」と「哺乳類マウスの代替動物として両生類・魚類」を用いて、脊椎動物の体の構造、多細胞動物の分裂細胞の存在と意義を理解する、高等学校で実施可能な実験系を確立する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 実験材料費が若干安価で購入できたため、17054円の残額が生じた。 (使用計画) 次年度分と併せ、実験材料費に当て、最終年度にあたりより充実した実験を計画・実施する。
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