理科4科目(物化生地)は基本4概念:エネルギー,粒子(物質),生命,地球のすべてと関連するが,各科目は1概念だけで構成される印象を受ける。ある現象に興味を持つ学習者が,複数概念で学習することを阻み,多面的見方を困難にする。複数概念から多面的に考察する教材開発のため,本研究は生命と粒子の間に存在する「酵素」の教材利用を提案した。 平成28年度,唾液と食器洗い機洗剤のαアミラーゼの反応を比較し,生命と粒子の両方に関わる教材を作った。生命由来の唾液のαアミラーゼと物質由来の食器洗い機洗剤αアミラーゼの反応を高温で比較し,授業展開を工夫した。唾液中のαアミラーゼは100℃近い高温で失活するが、食器洗い機洗剤のαアミラーゼは失活しないことから、酵素が生物外でも作用し、異なる生物も同様な反応をする酵素をもつ事実を確認できた。 平成29年度,αアミラーゼの教材を,鳴門教育大学附属中学校での授業に使用し,生物と物質の関係,同じ働きをする酵素でも安定性が異なることを認識させられた。リパーゼの反応でトリグリセリドから生成するモノグリセリドの検出の候補物質に,N-ヒドロキシフタルイミド誘導体を利用し,メタノールでの開環反応をUVで検出できた。 平成30年度,リパーゼによりトリグリセリドから生成するモノグリセリドの検出は,アルコール性水酸基の生成で確認可能と捉え,①エチレングリコール,②グリセリン,③1-モノアセチンをモデル化合物とした。N-ヒドロキシフタルイミド誘導体のエチレングリコールによる開環反応が検出できた。塩基性フクシン,亜硫酸ナトリウム,1M-HClの混合液を定性試薬(無色)に,①~③を過ヨウ素酸ナトリウムで酸化後,アルデヒドとして検出した(紫色)。消化薬で生成する1-モノグリセリドの検出が可能である。今後はリパーゼによる反応生成物の検出と,授業への応用を試みることが課題である。
|