研究課題/領域番号 |
16K00970
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
大橋 淳史 愛媛大学, 教育学部, 准教授 (50407136)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 科学教育 / 化学教育 / メタン発酵 / 高等学校 |
研究実績の概要 |
達成:学校教育に導入可能な実験教材としての実証実験が終了した。 成果:日本化学会中国四国支部大会,日本化学会春季年会で成果を報告した。 具体的内容:安価な反応容器の検証を行い,市販のアルミバッグが利用できること,その容器で燃焼可能な混合ガスを得た。 昨年度まではバイアル瓶を利用していた。バイアル瓶は比較的安価だが,(1)混合ガスによる圧力が高まると割れる可能性がある,(2)ガスの発生を確認するのが難しいという,ふたつの課題があった。そこで,内圧で割れないもしくは割れても安全であり,かつガスの発生量を確認しやすい容器について検討し,アルミバッグに注目した。市販の詰替え用アルミバッグは,入手容易で,内圧で破れても安全である。また,気体の発生によってバッグが膨らむため,ガスの生成量を確認しやすい。そこで,このバッグを利用して検討を行った結果,メタン/二酸化炭素=12/1の混合ガスを得た。この混合ガスは,そのまま燃焼させることができ,教材としての価値を証明した。詰替え用アルミバッグは,バイアル瓶と比較すると,コスト的な優位性は低い点,使い捨てになるので数が必要な点に解決すべき課題があるが,学校教育で導入可能な実験教材としての実証実験は終了した。今後は,実用化に向けて,より安価で,利用しやすい容器,および恒温槽を代替する安価な恒温装置について検証する。平成34年度から順次始まる高等学校の新科目「理数探究」で活用可能な教材になるように,条件を調整中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
反応条件の検討:栄養剤の添加でメタンの生成量が変化するかどうかを検討した。炭水化物の添加によって,混合ガスの生成量は3倍になった。酢酸の添加によって反応速度が1.2倍になった。一方で,酢酸には有害性があるため,速度とのトレードオフで考えると,酢酸は添加しないほうが教材として有用であると結論した。 反応容器の検討:ガラス瓶以外の反応容器を検討した。ガラス瓶はメタン透過性が低く,反応容器として適しているが,次の課題がある。(1)気体の生成を目視できない,(2)容量に上限がある。(1)ガラス瓶は外形が変化しないため,気体の生成を目視できない。そのため経時的な気体生成量を測定するためには,マノメーターで内圧を測定するしかない。しかしながら,マノメーターは効果であるため,マノメーターを利用しない気体の生成量の測定法が必要であった。(2)バイアル瓶を容器として利用しているが,最大容量は900mLである。気体は1モルで25L程度あるため,反応が進みすぎると容器が爆散する可能性がある。燃焼実験を行うことを考えると,より多くの気体を捕集することが必要であるため,バイアル瓶よりも容量の大きな容器が必要である。 混合ガスの生成比:燃焼実験が可能なメタン/CO2=0.6以上の混合ガスを得る方法を検討した。メタン発酵は,いくつかの菌が相補的に働くため,メタンのみを得ることはできない。しかしながら,混合ガスのメタン生成比が60%以下だと燃焼させることができない。そこで,メタン生成比が60%を超える条件を検討する必要がある。アルミバッグを利用することでメタン生成比を90%まで高めることに成功した。燃焼実験にも成功しており,実証実験のフェーズは終了したと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
アルミバッグの検討:詰め替え容器のアルミバッグの再利用をしていたが,次の課題がある。(1)コスト,(2)入手容易性,(3)口の大きさ。(1)詰め替え容器の容器単体のコストは非常に低いだろうが,容器単体で入手することはできないため,詰め替え容器を購入し,内部を使うもしくは捨てる必要がある。その場合のコストは製品としてのコストになるため,バイアル瓶と比較してコスト有意性がない。(2)(1)に関連して,入手は容易だが,数を用意することが難しい。探索研究では多くの反応条件を同時に検討できることが望ましいため,複数の容器を入手できる必要がある。(3)詰め替え容器の口径は,バイアル瓶の1.3倍だが,土壌を入れるには小さい。これは容器の用途上当然の設計であるため,土壌を入れやすい容器を準備する必要がある。 栄養の検討:メタン発酵はニッケルやコバルトの添加で反応速度を向上させることができることがわかっている。しかしながら,これらの試薬は有害物質もしくは特定化学物質に指定されており,学校で利用することはできないだろう。また,これまではコースティプリカーと呼ばれるコーンスターチの副成を利用してきたが,コーンスティプリカーは粉末状であるため,溶解しているかどうかを書くにする必要があった。そこで,これらの課題を解決するために液肥を検討する予定である。 反応装置の検討:恒温槽に代わる簡易で安価な恒温装置が必要である。恒温槽は温度管理が容易で大変便利だが,高価であり,学校では利用できない。そこで,恒温槽に代わる安価で簡易に利用できる装置の開発が必要である。加温方法は,水層と空気層の二通りが考えられるが,装置の簡便性で言えば空気加熱できるのが望ましい。装置の改良について検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実証データの取得にこぎつけたが,実験装置の都合で試行回数を十分に取ることができていない。 試行回数を増やすための装置改良に想定以上の時間が必要となった。具体的には,ガラス製のバイアル瓶を代替する,低コストで入手容易な容器として,ペットボトルの検証に想定以上の時間が必要になった。ペットボトルを容器として利用してメタン発酵に成功したという報告があったため,ペットボトルについて検証したが,再現できなかった。そのため種々のペットボトルについて検証を続けたことが装置の開発の渉外となった。検証の結果,ペットボトルには酸素透過性があること,二酸化炭素バリア能はあるがメタンバリア能はないことから,ペットボトルではメタン発酵はできないと結論した。条件が違うため一概には言えないが,結果的に信頼性に乏しい報告の再検証に多大な時間を取られたため,成果で報告したアルミバッグへの移行が遅れたことが主要因である。 結果的に,アルミバッグで実証実験に成功したため,計画に大きな遅れはない。しかしながら,低コストなアルミバッグについての検討と反応条件の検討が十分ではなく,想定していた予算計画から未使用額が発生した。
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